24「遠くから来るようです」




【それ】は、空を移動していた。

 人型でありながら、まるで翼でも持つ様に、空の王者だと言わんばかりに悠々と飛び続ける。

 一見すると、それは二十歳くらいの人間の青年だった。

 しかし、人間ではありえない魔力量を持っている。

 空を飛ぶことのできる人間は少なからずいるが、飛んでいる速度がありえなかった。


「――はっ!」


 人間ではない。

 だからといって、人型の別種族でもない。

 魔族でもなく、魔王でもなかった。


「――ははははははっ!」


 青年は楽しそうに笑いながら飛び続ける。

 血の様な赤い髪をなびかせ、子供のように無邪気に笑いながら、空を駆ける。

 彼の赤い瞳には、遠い遠い場所で『楽しそうなことをしている連中』が映っていた。


「俺様を相手にしない奴らが、何人も集まってなにしてやがるんだ? 祭りか? 祭りなんだな?」


 全身に赤い魔力を滾らせて、青年はさらに速度を増していく。

 青年の飛行は暴力の様な凄まじさがあった。

 砂嵐を巻き上げ、湖面を割り、木々をなぎ倒す。

 極力、生物が少ない場所を飛んでいるのは、青年のわずかな気遣いだろう。


「おいおい! 竜王とバカ息子とバカ娘がそろって、魔王と睨み合ってるとかなんだよ! 準魔王が四人も揃ってるとか、ありえねーだろ!」


 青年の赤い目には、竜王炎樹たちがスカイ王国の草原に集まっている姿がはっきりと見えていた。

 そして、青年は違和感を覚える。


「――誰だ?」


 その疑問は、ひとりの少年に対してだった。


「レプシー……じゃなねえ。人間、でもねえ。魔王か。魔王なのか? 確か、レプシーを倒した人間の子供がいるって聞いていたけど、つまりそういうことか!?」


 青年が楽しそうに嬉しそうに笑みを深くする。

 まじまじと離れた場所で竜王相手に臆することなく向き合っている少年に、大きな興味を抱いた。


「まだ子供のくせに、至りやがったのか? 何百年も生まれなかった、新しい魔王だっていうのか?」


 ぶるり、と身体が震えた。


「それは、面白すぎだろ!」


 青年の空を飛ぶ速度を増した。


「祭りだ、久しぶりの祭りが始まるぜ!」


 感情を昂らせた青年の肌には、赤い鱗が浮かんでいた。

 彼の名は、玉兎。

 数少ない赤竜であると同時に、次期竜王候補でもある竜だ。

 そして、いずれ戦闘能力だけなら竜王も超えるだろうと言われる才能と資質を宿す個体だった。

 だが、本人は、竜王などどうでもいい。

 ただ強い奴と戦って、最高の戦いをする。


 ――ようは、戦闘狂だった。


 玉兎はスカイ王国の草原に向かい、全速力で飛んだ。




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