23「兄妹VS兄妹です」②
「いやいやいやいや、圧倒的すぎるだろ!」
数分後、完全に意識を失っている青牙と青樹が草原に大の字になって倒れていた。
竜の兄弟はダニエルズ兄弟によって、一方的すぎる暴力の波に屈し、敗北したのだ。
想像していなかった竜と吸血鬼の実力差にサムが思わず大きな声を出す。
「魔王に至る前のサムお兄ちゃんのほうがよほど強かったな。いや、比べるまでもないな」
「竜王の子供のくせに弱すぎじゃん!」
まさか竜王の息子と娘が、それも次期竜王候補がいくら準魔王の中でもトップにいるとはいえ、ダニエルズ兄妹に手も足もでない展開が待っているとは予想外だ。
驚くサムの隣で友也が口を開く。
「言っておきますが、ダニエルズ兄妹は少々アレですが強いですよ。そんなふたりと魔王に至らずに、人間の身で戦ったサムがおかしいんですからね」
「レームとティナが強いのは身をもって知っていたけど、俺が言いたいのはそっちじゃなくて、竜のほうが弱くね?」
竜王の子供というからどれだけ強いのだろうかとワクワクして戦闘を見守っていたのだが、がっかりするほど弱かった。
サムがかつて戦った灼熱竜のほうが強いとはっきりわかる。しかし、彼女は竜王候補ではない。
(どういうこと? 次期竜王候補じゃない灼熱竜よりも、候補の青牙と青樹のほうが弱いって、意味がわからない)
竜には竜の事情があるのかもしれない、と思い、思考をそこで止めた。
とにかく、これでエヴァンジェリンを敵視する青牙と青樹は無力化した。
ならば、あとは竜王に連れて帰ってもらうだけだ。
「さて、敗北者に教育の時間だ!」
「立派なお兄ちゃんとお姉ちゃんにしてやるよ!」
「こいつらがお前らみたいになったら逆に気持ちわりーよ!」
あくまでも立派な兄と姉にしようと企むダニエルズ兄弟に、エヴァンジェリンが突っ込む。
確かに、彼女の言う通り、今までエヴァンジェリンを毛嫌いしていたふたりが、急にダニエルズ兄妹のようになったら悪夢だろうし、受け入れ難いだろう。
「あまり人様のご家庭の事情に首を突っ込むなって」
「しかし、お兄ちゃん! 俺たちには、立派なお兄ちゃんを増やすという使命が」
「使命が!」
「ねーよ!」
とりあえず、ダニエルズ兄妹を青牙と青樹から引き離す。
すると、竜の兄妹が目を覚ました。
「……負けた、のか」
「嘘、でしょ」
圧倒的な実力差のせいで、青牙と青樹は自分たちの敗北を自覚できていない様だった。
ふたりは、起き上がろうとして起き上がれず、顔だけをあげて戦ったダニエルズ兄妹を、見守っていたサムたちを、そしてエヴァンジェリンを睨みつけた。
「ありえん! ありえん! 竜の私が、次期竜王候補の私が、たかが吸血鬼程度に敗北だと!?」
「もういい」
敗北を受け入れることのできない青牙が叫ぶと、静かに、それでいて威圧感が込められた声が響いた。
「母、上」
「もういい」
青牙と青樹、そしてエヴァンジェリンの母である竜王炎樹が、倒れる我が子を見下ろし、そして冷たく言い放った。
「青牙、青樹、お前たちは古い竜たちが、私の子供という理由だけで次期竜王候補に据えただけだ。お前たちが竜王になることはない」
「――――」
母親の言葉に、青牙と青樹が絶句する。
無理もない。
竜王であり、母である炎樹から、「竜王になれない」とはっきり告げられてしまったのだから。
「エヴァンジェリン。お前が魔王に至らなければ、次の竜王はお前か玉兎のどちらかだった」
玉兎、という知らない名前が出てきた。
サムは気になったが、口を挟むことはしない。
すると、友也がそっと耳打ちをした。
「竜の中でエヴァンジェリン以上の問題児ですよ。単純な強さだけなら魔王よりも強いかもしれません」
「おっかないなぁ」
「ちなみに、灼熱竜の夫です」
「マジか!? あの若い竜と浮気したとかいう?」
「はい。なんというか、喧嘩が大好き、女が大好き、というわかりやすく単純な竜です。ただ、強いことを不満に思っている様で、いくつか枷をつけて力を弱くして戦うのが好きな戦闘狂なんです」
灼熱竜の夫が竜王候補だと知っていたが、まさか竜王に次の竜王として名前が出てくるほどの竜だとは知らなかった。
「ママ」
「お前は生まれが特殊だ。そのせいでしなくていい苦労もしただろう。恨みも憎しみもあるだろう。許さずとも良い――すまなかった」
「べ、別にママのことを許すも何も、恨んだことも、憎んだこともないし!」
エヴァンジェリンが竜の里でどのような扱いだったのか、サムも少しは聞いている。
どちらかといえば、竜王よりも周りの竜に問題があった気がするのだが、無粋なことは言わないようにした。
「なぜ、なぜお前ばかり! お前ばかり母上に気にかけられるのだ!」
「邪竜のくせに、呪われた黒竜のくせに!」
その時、青牙と青樹の叫びが草原に木霊した。
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