16「転移しました」②
「兄貴!」
「ボーウッドも、ありがとう。王都を守ってくれようとしたんだよね」
「へい! 兄貴の不在を勝手ながら任せていただきたいと思っていやした。それにしても――ずいぶんと変わられたようですね」
サムの傍で、ボーウッドが膝をつく。
彼の目にも、サムの変化ははっきりとわかっているようだ。
「一度は魔王を名乗ろうとしましたが、なるほど……これは俺には無理でさぁ。どう足掻いても本物の魔王には、なれませんね」
「当たり前だ! そもそも真なる魔王とかいうわけのわからん奴らに唆されている時点でお前は駄目なのだ! せめて準魔王級くらいになってからにしろ!」
過去の行いを反省するボーウッドにゾーイが更なる反省を促す。
ボーウッドは魔族の中でも強いほうだ。
しかし、実際戦ってみて、ゾーイやダニエルズ兄妹のほうがより上だとわかる。
少なくとも、ボーウッドでは残念ながら魔王を名乗っても、すぐに他の魔族に潰されていただろう。
「ゾーイ、ボーウッドも反省しているんだからほどほどにしてあげなよ」
「サムは甘い!」
「兄貴のお優しい言葉に感謝します。一生ついていきますぜぇ! ――ところで」
「うん?」
「あれは放置していてもいいですかね?」
ボーウッドが視線を向けた先には、サムが極力視界に入れないようにしていたダニエルズ兄妹がクライドと何やら話をしている光景だった。
嫌でも耳に届いてくる三人の会話は、できることなら関わらないようにしたい。
「サム、行ってこい」
「ぼっちゃまファイトです!」
「兄貴の出番ですよ!」
「サムの勇姿をここで見守っているからね」
ゾーイ、ダフネ、ボーウッド、そしてギュンターもダニエルズ兄妹とクライドの間に割って入る勇気はないようだ。
友也に視線を送ってみるも、彼は腕でバツを作り関わりたくないと全力で表現している。
ずっと静かなエヴァンジェリンは、母と兄姉に思うことがあるのだろう、複雑な顔をして彼らから目を離さない。そんな彼女を、絶対阿呆な展開になること間違いない三人に巻き込むのは申し訳なかった。
サムは、嫌そうな顔をしながら、ダニエルズ兄妹たちに近づいていく。
「お兄ちゃんの義父だと――つまり俺たちのパパ……とは呼びたくないな。なにやら、この男からはパパ力が足りない」
「まったくだね。パパ力をまるで感じないよ」
聞こえてくる会話はやはりどうでもいいことだった。
というか、パパ力ってなんだ。
お兄ちゃん力、お兄ちゃんポイントと続いて、新しい言葉を生み出すダニエルズ兄妹はある意味魔王より恐ろしい。
「ふむ。よくわからないが、私はビンビン力のほうが大きいのである!」
「なるほど」
「確かに」
「嘘ぉ、納得しちゃうの!? つーか、ビンビン力ってなに!?」
ダニエルズ兄妹に負けじと新たな言葉を生み出すクライドに、もう放置して竜たちとは話を進めることをサムは決めた。
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