11「またまたビンビンです」②
「――ビンビンだと?」
静寂を破ったのは、竜王だった。
彼女は、不躾な質問に怒るわけでもなく、無感情に首を傾げた。
「き、聞きやがった。竜王相手に聞きやがった! すげえ、さすが兄貴の国の王様だ!」
続いて、ボーウッドが、クライドのしでかした偉業に戦慄し、全身の毛を逆立る。
「なぜお前は感動しているんだ! そこはもっと違う反応があるだろう!?」
仮にも一度は魔王を目指した男が、こうも阿呆になるとは思わなかったとゾーイが嘆く。
「というか、私は尋ねるなと言ったよな!? なぜそんなお馬鹿なことを尋ねたのだ!? いや、そもそも聞かなければならないようなことか? しきたりとか絶対嘘だろ!」
「なぜだと? それは、私が、このクライド・アイル・スカイがビンビンだからである!」
「意味がわからんっ!」
ゾーイだけではない。
ダフネとエヴァンジェリンもなんとも言えない顔をしていた。
ボーウッドだけが、すげぇ、すげぇよ、とクライドの好感度を上げている。
「それ以前の問題として、一国の王が護衛もつけずに、危険な場所に来るな!」
「それは誤解だ、ゾーイよ。この場を囲うように、そなたの親友キャサリン、義理の息子となったデライト、サムの義父でもあるジョナサンをはじめ、魔法軍が控えている」
「そんなことには気づいている! あとキャサリンを私の親友にするな! そうではなく、お前ひとりでこんなところにくるなと言っているのだ!」
「ははははははっ! 硬いことを言うな! 硬いのは――おっとこれ以上、少女に言うと叱られてしまう」
「ビンビン言ってる時点で配慮が足りてないのは変わらないからな!」
肩で息をするゾーイが、唾を飛ばす。
「もう少し真面目にできないのか? レプシー様が泣くぞ!」
「これでも真面目にやっているのだがな。さて、竜の諸君。この国の最大戦力と最大防御こそ不在だが、それでも我が国には優れた人材はいるのだよ。そして、今でこそイケメンで愛妻家の国王でしかないが、これでもかつては結界術師として活躍していたのだぞ」
クライドが指を鳴らすと、竜王炎樹とその子供青牙、青樹をはじめ、クライドとゾーイたちを結界が覆う。
結界内には民はひとりもいない。
対象のみを結界内に閉じ込めたのだ。
「ギュンター・イグナーツは、スカイ王国が誇る結界術師だが、あの子に結界術を教えたのはこの私なのだよ。魔王レプシーを長年封じ、守ってきたスカイ王国王家のこのクライド・アイル・スカイの結界術――そなたたち竜にどこまで通用するのかぜひ試してみたいものだ。言っておくが、自信はかーなーりーある!」
まだギュンターが結界術師として頭角を表すまで、国を覆う結界はクライドがレプシーを封じながらやっていた。
王家の力を使うことで余力はあったが、魔王の封印に全力を注ぎたいと考えていた。そんな折、ギュンターが結界術を学びたいと言い、クライド以上の素質がわかり、喜んで技術の全てを授けた。
ギュンターは、クライドを優に超える結界術師に育った。
たった数年で、まるで結界術を手足のように、呼吸するように自然に、しかも頑丈な結界を使えるようになった。
以来、クライドの力の全ては魔王に集中できた。
だが、ギュンターのほうがクライドよりも結界術師としての力量は上だが、クライドの実力も結界術師の中では上位にある。ギュンターが規格外なだけだ。
そんなクライドが数年ぶりに力を民の前で使ったことにより、まだ避難していなかった民たちが次々に声を上げた。
「陛下だ、陛下が結界術を使っておられるぞ!」「おお、お懐かしい!」「竜王だかなんだかしらねえが、陛下がいれば心配ない!」「おうよ! 長年この国を守ってきてくれたお方だ!」「政治はさておき、結界術の実力は素晴らしいものだ!」
ゾーイたちの会話から、竜がこの場にいることは民たちも気づいていた。
それでも、パニックにならなかったのは、この国にはサムがいる、ギュンターがいる。宮廷魔法使いもいる。最近では愛の女神様まで降臨した。そして、なによりも、クライド・アイル・スカイがいることがわかっていた。
ゆえに、民は不安はない。
かつて、王都を竜が襲ったときは、その巨体と怒りを受けて怯えてしまったが、今は違う。
国を守ってくれる人たちが、ちゃんとここにいるのだとわかれば、怖くなかった。
「――ビンビン!」
誰かが叫んだ。
その声がきっかけとなり、民たちは自分を鼓舞するように、竜と対峙するクライドを応援するように、ひとり、またひとりと、声を上げていく。
「ビンビン! ビンビン! ビンビン! ビンビン!」
国民たちによるビンビンコールに、クライドは両手を上げて応える。
ゾーイ、ダフネ、エヴァンジェリンは絶句し、ボーウッドも民と一緒に「ビンビン!」と叫ぶ。
そんな混沌の中、竜王の息子青牙が侮蔑を込めて吐き捨てた。
「――哀れな。どうやらこの国は、上から下まですべてが、エヴァンジェリンの影響で狂ってしまったようだな」
「ちょ、それは冤罪すぎるっ!」
母を前にあまり言葉を発していなかったエヴァンジェリンも、理不尽な兄の言葉に、我慢できず抗議の声を上げた。
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