12「またまたビンビンです」③
「黙れ!」
ビリビリと空気を震わす青牙の声に、民たちのビンビンコールが消えた。
竜の怒りは凄まじく、彼らを覆う結界にヒビを入れるほどだった。
クライドが小さく頷くと、ジョナサンたちが現れ、民をこの場から避難させていく。対応は迅速で手際もいいため、あっという間に王都の城下町の大通りから民たちの姿が消えた。
「仮にも竜というのなら、もっとか弱い人間に配慮してもらいたいものであるな」
「軽々しく口を開くな! 貴様は、この国の王だと言うが、母上と対等だと思うなよ! 母上は、竜王! 竜の王である!」
「そうであるな。そういえば、まだ返事をもらっていなかったな――竜王殿はビンビンであるか?」
後ろでクライドとジョナサンたちの行動を少しだけ感心していたゾーイは絶句した。まだ尋ねるのか、と。
いっそもう病かなにかではないのか、と口を開こうとしたゾーイよりも早く、青牙が顔を真っ赤にし、鱗を肌に浮かべて激怒した。
「――貴様っ! 一度ならず、二度までも! 母上に向かってなんと破廉恥な! この国ごと滅してくれる!」
「さすがに貴様が悪い! ビンビンのせいで国が滅んだとか、ありえんだろ! ここはまず謝罪しろ!」
竜に味方するつもりのないゾーイだが、さすがにクライドが悪いと判断し、謝罪を促した。
だが、問題は謝罪したところで青牙が許すか、だ。
最悪の場合はここで戦いとなる。
そんな覚悟をして、腰の剣に手を伸ばそうとしたその時。
「――待て」
静かだが、威圧のある声が響いた。
竜王炎樹のものだった。
「母上! しかし!」
「待て」
「……は」
三度は言わんとばかりの竜王に、青牙が沈黙する。
だが、彼は納得していない顔をしている。
そんな息子に見向きもせず、竜王は前に出た。
「人間の王よ、クライド・アイル・スカイと言ったな」
「うむ」
「私は竜王。竜の王、炎樹だ。こちらとしては、争うつもりはない」
「それはありがたい」
「だが、問いたい。無知をひけらかすようで恥いるが――ビンビンとはなんだ? いや待て、青牙よ。お前は知っているようだな、説明しろ。ビンビンとはどのような意味だ」
竜王以外が硬直した。
まさか竜王の口からビンビンなどという言葉が飛び出してくるとは思わなかった。意味を知らぬのもいい。知らなくていいことだ。だが、知らぬからと言って、心当たりのありそうな息子に説明させると言うのはいかがなものかと誰もが思った。
「重ねて謝罪しよう。竜は引きこもり体質ゆえ、質問の意味が理解できなかった。だが、幸いにも息子が人間の知識があるようだ。しばし待て」
「あ、はい」
返ってきた反応が違かったからか、それとも斜め上をいく事態に脳が対処できなかったのか、クライドは短く返事することしかできなかった。
竜王は、困惑している息子の顔を見ると、説明を求めた。
「青牙よ。簡潔に説明しろ。ビンビンとはなんだ?」
「そ、それは、その、なんと言いますか」
当たり前だが、青牙は母にビンビンの説明を躊躇った。
長く生きる竜であっても、このような困難はそうそうあるまい。
「……困った。まさかこんなにも真面目に返されてしまうとは逆に反応に困る。息子さんすんごく困惑した顔をしているではないか。どうするの? 今から本当にビンビンの意味を母親に説明するの? その気まずい説明を私たちは聞かなければならないのか?」
「お前のせいだろうが!」
元凶がなにを言っている、と我慢できずにゾーイがクライドの尻に蹴りを入れた。
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