71「本気の全力です」③




 サムが展開した未完全術式――斬り裂く者。

 それは、すべての魔力を身体強化と『スベテヲキリサクモノ』の使用に全振りした能力だ。

 この術式展開中は、身体強化魔法以外の魔法すべてを使えない。

 術式ウルリーケのように、斬る閃光を放つこともできなくなる。

 だが、それらを引き換えに、サムは常に『スベテヲキリサクモノ』を展開している状態となる。

 つまり、サムの拳が、蹴りが、頭突きが、それこそ指一本で相手に触れることができれば、斬り裂くことが可能だった。

 さらに言うと、通常の状態で放った『スベテヲキリサクモノ』よりも、威力は断然上だ。

 強いて弱点を上げるのであれば、触れることが斬るための必須条件である。


『斬る』ことに特化したスキルを生かした、サムが今できる最強の術式だった。


 ――ゆえに、腕を掴まれたダニエルズ兄妹の腕は、容易く斬り裂かれる。

 吹き出した鮮血さえ、サムに触れただけで斬り裂いてしまう。


『なにを、した!?』

「斬っただけだよ。まだまだいくぞ!」


 右肩を抑えた異形が、後退するようによろめくよりも早くサムが肉薄する。

 とん、と軽く触れるようにダニエルズ兄妹の左腕に触れる。

 刹那、サムが触れた場所から腕が斬り裂かれ、宙を舞った。

 続けて、左足、右足と触れるだけで、易々と両断され、異形が音を立てて砂浜に背中から倒れた。


『なぜだ! なぜ再生しない! まさか、再生能力まで斬ったとでもいうのか!?』

「それは想定外だけど、ならもう結末は見えたね」


 サムはダニエルズ兄妹の首筋に指を近づける。


「俺の勝ちだ」

『――ふ、ふふふふっ、いいぞ! いいぞ! サミュエル・シャイト! 素晴らしい! お兄ちゃんポイントが雪崩のようにお前に降り注いでいる光景が見える!』

「それは脳に問題があるんじゃないかな?」

『しかし! しかし! まだここでは終わらない! このままでは俺は、レプシー兄さんに顔向けできない!』


 ダニエルズ兄妹からさらに爆発的な魔力が解き放たれる。

 たまらず、サムが飛び退いた。

 すると、異形の手足がゆっくりとだが再生されていく。

 サムの一撃が、再生を遅らせるだけのダメージを与えていたのだと確信した。

 再生されてしまうとはいえ、このまま戦いを続ければ、勝つのはサムだろう。


(――やっぱり、この術式、未完成のせいか燃費が悪いのな)


 問題は、いつまでサムがこの術式を維持できるかどうか、だ。

 ダニエルズ兄妹が立ち上がり、爆発的な魔力をすべて身のうちに秘めた。


『今からレプシー兄さんに捧げる、弟と妹の最大のハーモニーを繰り出す! 魔王に至ると言うのなら、この一撃を破ってみせろ! さすればお前も立派なお兄ちゃんだ!』

「ブレねえなぁ! だけど、いいぜ! 最後までやろう!」

『いくぞ、サミュエル・シャイト!』

「いくよ、レーム・ダニエルズ! ティナ・ダニエルズ!」


 サムが拳を握りしめ、ダニエルズ兄妹が鋭い鉤爪を構え、砂浜を蹴った。


「うらぁああああああああああああああああああ!」

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 そして、サムに迫る鉤爪が、拳によって斬り裂かれ、そのままダニエルズ兄妹の胴体を、四肢を、そして首を切り飛ばしたのだった。





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