閑話「介入することを決めました」




「まだ、足りないですね」


 準魔王級ダニエルズ兄妹を相手に善戦、いや、それ以上の戦いをするサミュエル・シャイトに、魔王遠藤友也は困ったように呟いた。

 サムの力は想像以上だった。

 魔王レプシー・ダニエルズから受け継いだ力がなくとも、十分に準魔王級の実力がある。

 大事に育てれば、さほど時間がかからずに勝手に魔王に至るだろう。


「実力があるだけに残念なんですよね。彼には時間がない」


 成長を見守る時間も、育てる時間もないのだ。

 間違いなく、サムは自分の力によって内側から喰い殺されてしまう。

 それだけは間違いない。


「むしろ、ここまで問題なく戦ってこれたのがおかしいんです。そういう意味では、ウルリーケ・シャイト・ウォーカーの育て方が良かったとしか言えませんね」


 サムの力は、人間という器には納まりきらない。

 すでに器に亀裂が入り、今にも砕けようとしている。

 だが、絶妙な加減で現状を維持している状態だった。

 その状態がいつまで続くかは友也には判断できない。

 明日か、それとも一年後か、もしくは数分後かもしれない。

 確信がないからこそ、魔王に至るのを急がせた。


「本来なら、君の強さを喜び絶賛したいのですが、そうじゃないんですよ。善戦してどうするんですか、もっと追い込まれて、それこそ自分で器を壊すくらいしてくれないと」


 このままではダニエルズ兄妹を倒すだろう。

 それだけの力がサムにはある。

 しかし、それでは魔王に至れない。


「嘘か本当か、魔王に至るまでに苦労するとその力を跳ね上がるらしいですけど、どうなんですかね。まあ、死んだら試しようがないんですが」


 さて、と友也は次の行動を決めた。

 実を言うと、何度か行動に移そうとしていたのだが、隣ではぁはぁくねくねしている変態が、気持ち悪いことをしながらも注意を逸らしてくれない。

 同じく、馬鹿みたいに固い結界を張り巡らせているのも、戦いから守るためではなく、戦いを守るためだ。

 もっとも、この程度の結界など友也を止めるには足りない。だが、少々面倒ではあった。


「変態のくせに仕事ができるとか……はぁ。サムも面倒なのに好かれていますね。では、介入といきましょう」


 望んだ展開ではないが、強制的に殻を破らせよう。

 そのために、友也の力で彼の身にレプシーの力を覚醒させる。

 さすれば、サムの器は粉々に砕けちるだろう。

 あとは、魔王に至るか至らないかは、彼次第だ。


「同郷の君を失いたくないし、まだ話し足りない。このくだらない体質のせいで、僕は他人に餓えているんです。なによりも、僕の計画にサムは必要です。ここで失うわけにはいかないんですよ」


 自分だけではない。

 サムを待つ者もいる。


「奥様たちも、ご家族も、みんな君を待っているんです。あ、変態とブラコンもついてきますが、それはまあ、魔王になった代償という感じでお願いしますね」


 友也はサムがこんなところで死ぬとは思っていない。


「さあ、サミュエル・シャイト。魔王に至りましょう!」





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