34「エヴァンジェリンの今後です」②
「ダーリンと久しぶりに会えたし、しばらくこの国にいる予定だから、今度デートしようぜ」
男女のそれというよりも、友人感覚で出かけようと誘われたようだったので、サムは特に考えず頷いた。
「しばらくいるってことは、やっぱり神殿に戻るんだ?」
「姉様? そのおつもりなのですか?」
サムと立花が尋ねると、エヴァンジェリンは少しだけ照れ臭そうに頬をかいた。
「なんつーか、変態どもでも、慕ってくれるなら放っておけねーじゃん。私らしくねーけど!」
「……姉様」
「あんだよ?」
「姉様は邪竜と呼ばれ、心ない言葉を浴びせられたこともありました。どれほどお辛かったのか、私には想像すらできません。しかし、私は姉様が優しく、素敵な方だと知っています」
「ちょ、立花? ダーリンの前で何言ってんの? 恥ずかしいんですけど!」
「ですから、姉様の気の済むまで、この国で自由にありのままでお過ごしください。私もできることがあればお手伝いしますので」
灼熱竜は、姉を素直に応援した。
辛い過去を持つエヴァンジェリンが人と触れ合い、楽しそうにやっているのならば、と考えたのだろう。
サムとしても、無理やり女神に仕立て上げられているのなら止めていたが、エヴァンジェリン本人が信者たちを放っておけないというのなら、野暮なことはしない。
(この国の変態どもが活気付きそうな気もするけど、ま、今更だし、いっか!)
「頼りにしてるぞ。 ――じゃあ、話がまとまったところで、とりあえず、この屋敷を私とダーリンの愛の巣にする!」
「はぁ?」
「いやさ、神殿暮らしもそう悪いもんじゃないんだけど、一応魔王としてもっとこっそりしていたいっていうか。世話を焼かれるのも悪くないんだけど、ひとりでのんびりする時間が欲しいというか」
突拍子のないことを言い出したエヴァンジェリンではあるが、どうやら信者たちに甲斐甲斐しく世話を焼かれているようだ。
嬉しくないわけではないが、あまりチヤホヤされることに慣れていないので、ひとりになる時間がほしいらしい。
「……部屋なら空いているから、好きにしていいけどさ」
「さっすがダーリン! じゃあ、一番日当たりの悪い部屋を!」
「悪くていいんだ」
「……邪竜だから、燦々とした部屋はちょっと苦手なんだよ」
「そこまで邪竜に徹しなくてもいいのに」
「そういう習性なんだよ!」
エヴァンジェリンの習性はさておき、魔王である彼女が友好的にスカイ王国に滞在してくれるのはいいことだろう。
すでに愛の女神として、知名度が高く、クライド国王陛下でさえ受け入れているので、もう今更だ。
「そうだった! 私もダーリンの嫁になるんだから、ちゃんと他の奥さんたちに紹介してくれよな!」
「――本気ですか、姉上?」
「本気ってなんだよ?」
「サムでいいのですか?」
立花の問いかけに、ちっちっち、とエヴァンジェリンは指を左右に振った。
「わかってねえなぁ。ダーリンだからいいんだよ」
「……姉上がそうお決めになったのなら、私は反対しません。サム、姉上のことを頼んだぞ」
「えっと、これはどう返事をするのが正解なんだろうね」
竜の女性たちだけで、なにやら分かったような感じになっているが、サムとしてはなぜエヴァンジェリンが自分の嫁になろうという考えに至ったのかよくわかっていないので困惑するばかりだ。
正直言うと、邪竜とか魔王とかサムにはあまり気にする要素ではない。
黒髪と黒ゴス姿のエヴァンジェリンは、口こそ悪いが外見は美少女であり、その内面もこうして話してみるといい子であるとわかる。
そんな彼女から好意を寄せられて嫌ではないのだが、「なぜ?」という疑問がやはりついて回るのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます