22「女体化したそうです」③
「彼女こそ、サムの部屋に降臨した愛の女神様なのさ!」
「ちょ、待て! なんでエヴァンジェリンが俺の部屋に降臨したんだよ! つーか、お前はなぜ俺の部屋にいた!?」
改めて、突っ込みどころが多かった。
サムの叫びに続けて、ゾーイが嘆息する。
「エヴァンジェリンがどこにいるのかと思えば、まさかスカイ王国とは。おそらくサムに会いに来たのだろうが、まさか女神として祀られるとはな。しかし、なぜ助けてなどメッセージを送ってきたのだろうか?」
「ふむ。穏やかではないね。女神様は、日々嬉しそうにしているのだが」
ギュン子も、エヴァンジェリンが助けてなどとメッセージを送ってきた理由に心当たりはないようだ。
「エヴァンジェリンのことは置いておくとして、リーゼ、わざと黙っていましたね」
「ふふふ。ごめんなさい。どんな反応するかしらって」
サムはジト目をリーゼに向けた。
彼女はいたずらが成功したようにクスクスと笑っている。
「私たちも、ギュンターが女性になったと聞かされて、それはもう驚いたのよ。お父様なんて失神したのだから」
「でしょうね!」
「だからサムにも驚いてもらおうかしらって」
「勘弁してくださいよぉ!」
肩を落とすサムに、ギュン子が笑みを浮かべて拍手を始める。
何事だ、と一同が彼女に視線を向けた。
「さすがだとしか言えないね、サム」
「なにがだよ?」
「自分で言うのもなんだが、ウルリーケに匹敵する――いや、ウルリーケを超えた美しさを手に入れた僕を、ギュンター・イグナーツだと見抜いたこと、とても嬉しく思うよ。万が一ではあるが、僕に気づかないようなら愛想を尽かしていたところだったよ」
「しまったぁああああああああああああああ! 選択肢を間違えたぁああああああああああああああああああああああああああっ!」
サム、魂からの叫びだった。
劇場に響き渡る大絶叫のあとに、力なく膝から崩れ落ちてしまう。
そんなサムを慰めるように、ゾーイが「お前も大変だな」と肩に手を置いた。
「というか、リーゼたちはギュンターが女体化したことを平然と受け入れているのがびっくりなんですけど!」
驚きはしたと聞いているが、ギュン子の扱いは今までと変わっているように見えない。
「あのね、サム」
「は、はい」
「ギュンターが女性になろうと、男性であろうと、あなたへの対応と普段の言動が変わるかしら?」
「あー。変わらないでしょうねぇ」
「でしょう? だから、私たちも驚きこそしても、その後の対応は変わらなかったの。まあ、ギュンターだし、で片付いてしまったのよね」
苦笑いのリーゼ。
おそらく、花蓮たちも同じ反応だったのだろう。
「もっとも、イグナーツ公爵は絶叫したあと、ギュンターと壮大な親子喧嘩を繰り広げたのだけど、負けてしまったわ」
「普通の反応の人が、ふたりもいてくれたことに安心します」
「お、おい、口を挟んですまないが、お前たちはいろいろおかしいだろう!」
サムの背後で、なんとも言えないもにょもにょとした顔をしていたゾーイが、いい加減我慢できずに突っ込みを始めた。
「そもそもスカイ王国は、なぜあの理解不能な魔法少女と、女体化する変態を解き放っているのだ! 封じろ! それこそレプシー様よりも厳重に封じるべきだ!」
「あのね、ゾーイ」
肩で息をするほど勢いよく捲し立てたゾーイに、リーゼが同情するような視線を向けた。
「――これが私たちの日常なの」
「なん、だと」
「ギュンターが変態でもみんな受け入れるし、性別が変わって舞台女優になっても平気だわ。だって、ギュンターだから、で通ってしまうの」
「狂っているのではないか!?」
「キャサリン様だって、代々魔法少女なのだからみんな慣れているし、今更驚かないわ」
「怖い!」
「それと、あちらを見てご覧なさい。さっそくキャサリン様が舞台女優になろうとオーディションを受けているわ!」
「静かだと思ったら、まさかの展開だ!」
「ゾーイ、他国のあなたには困惑することが多いでしょうが、大丈夫」
リーゼはにっこり微笑んだ。
「――そのうち、慣れるわ」
「スカイ王国怖い! 帰りたい!」
「そもそもふたりとも国では人気が高いのよ。慈善活動に積極的だし、ふたりの支援を受けた子どもたちだってたくさんいるわ。キャサリン様なんて、月に一度のペースで、魔法少女に憧れる子どもたちとの交流会だって欠かさないし、素敵な貴族のお手本のような方よ」
ゾーイはもう絶句していた。
一緒に話を聞いていたサムも同様だ。
まだ王都の生活が長くないサムは、国の闇を知った。
「大きなお世話だろうが! 私はスカイ王国の未来がとても心配だっ!」
小さな身体を震わせて声を荒らげたゾーイに、サムは「ですよねー」と頷くのだった。
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近況ノートにて重要なお知らせをさせていただきました。
よろしくお願い致します。
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