6「遠藤友也の理由です」
「――日本での生活はこの体質のせいで最悪の一言でしたので、僕は異世界では人とか関わらずに静かに暮らしたいだけでした」
「気持ちはわからなくもないです」
「ですが、お恥ずかしい話ですが、僕は寂しかったんです。日本では無理でしたが、この世界ならありのままの僕を受け入れる人がいるんじゃないかと思いました」
友也の気持ちを理解できた。
特異体質を持ち日本では快く扱われなかったとしても、ここ異世界であれば気にしない懐の深い人間がいるかもしれない。
魔族なら気にもしないかもしれない。
もしかしたら、人間以外の魔族ならラッキースケベも反応しないかもしれない。
様々な希望があったのだと思う。
「まあ、実際はこちらの世界でも種族問わずラッキースケベの連発で、ときには剣を向けられたことだってありました。それでも、僕はどこかにきっと僕を受け入れてくれる誰かがいると探し続けました」
友也はただ当てなく探し人をするだけではなく、道中で人助けをしてきたと言う。
「みんなに迷惑をかけた分、いいことをしようと考え、孤児を拾い育てました。病にかかった人を何人も助けました。お金がないのならいくらでも差し上げました。自分でも言うのもなんですが、善行という善行はしてきたつもりです」
「素晴らしいことだと思います」
サムは素直に友也を尊敬した。
体質のせいだ、自分は悪くない、と腐ることもできたはずだ。
ラッキースケベを使って悪さもできただろう。
だが、彼はしなかった。
悪事に手を染めず、善行を重ねて前に進み続けた。
「みんな感謝してくれましたし、僕を聖人扱いする人もいました。ときには、仲間の輪に加えてもらったこともあります。でも、長くは続かなかった」
「……なぜですか?」
「僕は寂しかった。人恋しかった。誰かと一緒にいたかったし、笑いあいたかった。でも、それ以上に、他人が怖かったんです」
わからなくもない。
ラッキースケベ体質のせいで、多くの反感を買ってきただろう。
日本でも決していい思いをしなかったと聞いたばかりだ。
不幸中の幸いというべきか、女子は味方だったが、そのせいで男子からの評判はさぞ悪かったはずだ。
さらに、その女子でさえ女子同士で険悪な雰囲気になってしまったのだ。
それらを目の当たりにして、他人が怖くなるのは当たり前だ。
「かつて、僕を愛していると言ってくれた少女がいた。散々、ラッキースケベをした子でしたが、それでもそんな些細なことは気にしないと笑い飛ばし、一途に慕ってくれました。しかし、僕は彼女を受け入れることができなかった」
「…………」
サムはかける言葉が見つからず、聞くことしかできなかった。
「その後、彼女は老いて、人生を終えました。彼女はかつての僕がそうしたように、孤児を救い、血の繋がらないたくさんの子供たちから母と慕われて幸せそうでした。でも、結婚だけはしなかった。とても可愛い子だったので、たくさん求婚されたそうですが、拒み続けた。僕は、看取るときに尋ねたんです、なぜ、と」
友也は過去を思い出すように、瞳を潤ませた。
「そうしたら、彼女は今でも僕のことを好きだと言ってくれました。愛しているのは僕ひとりだけだと」
そして、友也の頬に涙が伝った。
「ショックでした。これほど、まっすぐに僕を愛してくれた子を、僕は信じなかった。勝手に怯えて距離を取っていた。情けなくて、悲しくて、申し訳なかった。二度と、こんな思いをしないように、こんな思いをさせないように、僕は前に進む決意をしました。そして、現在、こんな僕でもいいと言ってくれる子たちがいます」
涙を拭き、照れ臭そうに友也は笑った。
「その子たちの気持ちに応えてあげたい。そのためにも、僕はもうラッキースケベを捨て去りたいです。たとえそれが無理でも、封じることができればと考えています」
「……なるほど」
「僕は、ラッキースケベ以外にも魅了の力があるのではないかと疑ったことがあります。しかし、女神はないと言った。しかし、それでも僕は不安なんです。もしかしたら、彼女たちの気持ちを、心を操っているのではないか、と」
魔王遠藤友也は善良だった。
少なくともサムはそう思った。
「だからこそ――僕はもう一度女神と会いたいんです」
友也の切実な思いを聞き、助けになりたいと思う。
しかし、残念ながら、サムは女神に会うことなくこの世界に転生したのだった。
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