60「新生魔王の登場です」①
「――出てこい、獅子族のボーウッド!」
サムを先頭に、ボーウッドたちが集結する街に乗り込んでいく。
低い壁に囲まれた街の入り口を守る、獣人の兵がサムたちに気づき手にしていた槍の鋒を向けた。
「誰だ、貴様は! 魔王ボーウッド様は他の魔王様たちと大切な会議中だ!」
「ご丁寧に教えてくれてありがとう!」
礼と共に、全力で身体強化魔法を発動したサムが、獣人を蹴りとばした。
獣人はくの字になって、近くの倉庫と思われる建物の壁を突き破ると、起きてくることはなかった。
「よし! 割といけるじゃん!」
予想していた以上に軽々と獣人を倒すことができたサムがガッツポーズすると、ゾーイが呆れた顔をして嗜めた。
「油断するな、馬鹿者め。あのような雑兵など数に入らん」
「わかっているさ。出てきやがれ、ボーウッドぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
街中に響くような大声で、サムはボーウッドの名前を呼んだ。
プライドが高いと聞いていたので、こうすれば出てくるだろうと予想したのだ。
作戦もなにもない行動に、ゾーイだけではなく、水樹もキャサリンも困った顔をしているが、サムにとってはこれが当たり前だった。
ウルと旅をしていたころは、戦うべき相手がいたら姑息な真似などせず堂々と殴り込んでぶっ飛ばす。
単純でいい。
「――何者だ?」
サムの予想した通り、目当ての魔族が現れた。
金色の立髪を揺らし、長身の獅子だ。
獣人、というだけあり、顔や腕などは獅子のそれなのだが、二足歩行で歩いている。
少々成金のような雰囲気はあるものの、金のかかった服装と装飾品を身につけた姿は、ある意味貴族らしかった。
ぞろぞろと現れた獣人たちの先頭に立つ獅子だけが、強い、とはっきりわかる。
「あんたが、ボーウッドか?」
「気安く俺の名前を呼ばないでもらおうか。矮小な人間よ。――ん?」
獅子はボーウッドで間違いないようだ、低く唸るような声がサムに名を呼ばれたことを不快そうに感じた。
言葉を続けようとすると、彼の視線がサムから外れ、背後にいたゾーイに向けられた。
ボーウッドの視線に気づいたゾーイが、一歩前に出て獅子族の長を睨んだ。
「久しいな、ボーウッド」
「……ゾーイ・ストックウェルか。ふん、魔王どもめ。動きを察して死神を送り込んでくるとは、よほど俺たちが怖いようだな」
「無駄口を叩くな。ヴィヴィアン様たちが、貴様程度の雑魚などを怖がるはずがあるまい。苦しんで死にたくなければ、その口を閉じていろ」
ゾーイの物言いが気に入らなかったのか、ボーウッドが歯を剥き出しにして唸る。
いや、彼だけではなく、引き連れていた獣人たちもまた、唸りを上げた。
「騎士程度が偉そうなことを! ――俺は伯爵、いいや、魔王だぞ!」
「ふん。自称魔王のくせに偉そうな口を叩くな」
はっきりと魔王を名乗ったボーウッドに、ゾーイが噛みつく。
よほど彼が魔王を名乗ることが許せないのだろう。
気持ちはわかるが、このままでは話が進まない。
サムは背後から、ゾーイの脇に手を入れて持ち上げた。
「まあまあ、落ち着きなさいって。ゾーイ」
「サム! おいこら、猫みたいに持ち上げるな! 無礼者!」
「にゃーん」
げしげし、と蹴られながらゾーイを背後にやると、サムが数歩歩いてボーウッドに近づく。
「人間が俺たちの会話に割り込むなど――」
獅子の長は、サムが間に割って入ったことが気に食わないようだが、なにかに気づいたように言葉を止める。
「貴様、今、サムと言ったな?」
「ああ、サミュエル・シャイトだ。よろしくね」
あえてフレンドリーに接しようと握手を求めてみるが、ボーウッドは無視した。
「そうか! お前がヴィヴィアンが招いたと言うレプシーを殺した人間か?」
「まあ、そうみたいだね」
「くはははははははははははははははっ!」
堪えきれないように腹を抱えてボーウッドが笑い始めた。
「まあ、この対応は予想していたけど、実際されると腹たつわー」
「貴様が、貴様程度の人間の子供がレプシーを殺したのか!? 話には聞いていたが、実際に目にして驚いたぞ! 貴様のどこに、あの災厄のようなレプシーを殺せるだけの力があるのだ!」
「俺が知りたいんだけど」
「いやはや、これではレプシーが名前だけの弱者だったとしか思えんな!」
サムはボーウッドの言葉に反論しなかった。
彼から見れば、人間の子供だ。
体格の違いだけで、サムを弱いと思うのも否定はしない。
実際、魔族と人間では単純なスペックが違うのだ。
しかし、サムが弱そうだからといって、レプシーを弱者だと嘲るのは我慢ならない。
「――貴様ぁ! 言っていいことと悪いことの判断もできないようだな! レプシー様を侮辱した、その臭い口を切り裂いてくれる!」
サムよりも我慢ができなかったゾーイが再び前に出て、今にも腰の剣を抜こうとしたので、サムが首根っこを掴んで引っ張る。
魔王遠藤友也がボーウッドと戦えと言ったのは、ゾーイではない。彼女なら簡単に片付くのかもしれないが、それでは遠藤友也はよしとしないだろう。
「だから待って、あんたが戦ってどうするんだよ!」
「邪魔をするな! お前がどれだけ馬鹿にされようと構わないが、レプシー様を馬鹿にされるのは絶対に許せん!」
「そこは俺のほうも気にしてよ! じゃなくて、もう! おい、ボーウッド!」
いい加減、埒があかないのでゾーイを羽交い締めにしながら、話を進めることにした。
「人間の子供よ。気安く俺の名を呼ぶのは無知ゆえの愚かさとして許そう。だだし、敬意を込めてもらおうか」
「あー、はい、んで、ボーウッド」
「さん、をつけろ。ボーウッドさん、だ」
内心、「こいつうぜぇ」と思った。
口元が引きつるも、我慢する。
「ボーウッドさん」
「おうよ」
「御託はもういいから、早く戦おうぜ」
サムの宣戦布告とも取れる言葉に、
「――ふっ、ふはははははははははははははははははははっ!」
魔王を名乗る獣人は呵々大笑した。
「ぬかしたな、クソガキが! いいだろう! 俺の自慢の爪で八つ裂きにしてやる!」
轟っ、と吠えたボーウッドがサムと距離を詰めようと一歩踏み出した。
「おやおや、君ばかりが楽しむとは寂しいではないか。吾輩たちは除けものかな? 吾輩も、仲間に入れたまえ」
白い虎の獣人が、髭を撫でながら獣人たちの群れの中から前に出てくる。
「――アムル」
腕の中でゾーイが、虎の獣人の名を呼んだ。
(おっと、ゾーイが名前を覚えている魔族か、つまりこいつも――新生魔王か)
「ひひひぃぃぃいいいいいん! まさか我々の前に、たった数人で現れるとは! その度胸には感服致しますぞ!」
続いて、大剣を担いだ白馬だった。
しかし、その身体は馬というよりケンタウロスのようだ。
馬の体躯に人の上半身が乗り、顔は馬そのものだが、流暢な言葉を発している。
この中で、もっとも獣に近い獣人だった。
「――バッカスまでいたのか」
そしてやはり、ゾーイが名を覚えている魔族だった。
つまり馬の獣人の魔王だ。
「……魔王がぞろぞろ現れるんじゃないよ。もっと威厳を持って、勿体ぶって出てきやがれ」
新生魔王が三人も現れたことに、さすがのサムも苦い顔をした。
――が、内心は、みんなぶっ倒してやる、と闘志を燃やすのだった。
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