58「相手は強敵のようです」①
「――おっと。うぇ、気持ち悪い。転移魔法って、あまりいいもんじゃないね」
魔王遠藤友也の転移魔法によって開けた荒野に転移したサムは、乗り物酔いのような感覚に襲われ、頭を振った。
続いて、妻の水樹が、メイドのダフネが、宮廷魔法少女のキャサリンが転移してきて、最後に騎士ゾーイが現れた。
「すごいね、転移魔法って。ここがどこかわからないけど、僕たちがいた夜の国とはだいぶ雰囲気が変わったね」
「そうねぇ。自然が少なくて、ちょっと空気が悪いわ」
水樹が周囲を見渡しながら、この場の感想を口にした。
キャサリンは、あまりここの空気が合わないのか、ハンカチを取り出して口に当てている。
「ここは夜の国から南下した場所です。近くに闇の森という、モンスターが溢れる厄介な森があるので、少々空気が重く、魔力のない子供などは体調を崩してしまいます。もし、お身体に異変がありましたら、おっしゃってください」
ダフネの説明に、サムたちは思わず口を袖やハンカチで抑えてしまう。
「あんずるな。お前たちのような魔法使いにはそう害のあるものではない。この辺りは魔力が濃すぎるのだ。もともと魔族が暮らす西側は魔力が濃いのだが、この辺りはさらに濃い。そのせいで魔力酔いを起こす者が多いのだ」
「ゾーイも来てくれたんだ?」
「ふん。いい機会だ、レプシー様を倒したお前の実力をこの目で確認させてもらおう」
「やれやれゾーイは素直じゃないですね。ぼっちゃまが心配だと言えばいいのに」
「え? そうなの? ありがとう」
「ば、馬鹿者! 違う! おい、ダフネ! 貴様、適当なことを言うな!」
ゾーイがついてきてくれたことにお礼を言うと、彼女は白い頬を真っ赤にして否定した。
そんな彼女をダフネがからかっている姿を見ると、ふたりの仲の良さがわかってつい笑みが浮かんでしまう。
「とにかく! 向こうを見ろ! 街があるだろう? あの街に、ボーウッドと同じく新生魔王を名乗る馬鹿者たちがいるのだ! さっさと殺すぞ!」
「殺していいの?」
サムの疑問に、ゾーイがなにを言っているのだと怪訝そうな顔をした。
「当たり前だ。魔王様たちを蔑ろに、自分たちが魔王を名乗ったのだ。向こうも戦いになることはわかっているだろうし、敗北したら死が待っていると承知だろう」
「そっか」
「ヴィヴィアン様はお許しくださる――いや、気にもしていないだろうが、他の魔王様方はお許しにならないだろうさ」
サムは少しだけ残念に思う。
全部を全部賛成するわけではないが、上にのし上がろうとする向上心は嫌いじゃない。
サムだって、上がいるとわかっていて最強を目指すと豪語しているのだから。
「言っておくが、おかしな考えは捨てるといい。そもそも私が同行するのは、お前たちだけだと死ぬとわかっているからだ」
「かもしれないね」
「ダフネがいるのなら全滅こそ避けられるだろうが、獣人は馬鹿だが強い。少なくとも、人間が敵対してまともに相手ができるとは思えん」
「あーら、ゾーイちゃんったら、お姉さんたちを心配してついてきてくれたのねぇ。可愛い子!」
ゾーイの同行理由を聞き、キャサリンが嬉しそうに彼女の小さな体を抱きしめた。
「ええい! 抱きしめるな! 加齢臭がするだろう! 汗が、ヌルッとした! ヌルッとしたぞ! おおい! お前、本当にやめろ!」
「まっ、加齢臭なんて失礼ね! 毎日のように身体のお手入れは欠かしていないわよ!」
「やめろ! 頭を撫でるな! 私は貴様たちよりも年上なんだぞ! 膝をついて敬え!」
キャサリンを押し除けて、頬をぱんぱんに膨らますゾーイは小栗鼠のように可愛らしかった。
戦いの前だというのにほっこりしてしまう。
「仲良くしているところ悪いんだけどさ」
「貴様! その目玉をくり抜くぞ!」
「本当に俺じゃ獣人たちと戦って相手にならない?」
「……お前の実力をすべて把握しているわけではないので断言はしたくないが、無理だろう。有象無象の獣人たちならそれなりに戦えるかもしれないが、ボーウッドたち魔王を名乗る輩には勝てないだろうな。私よりは弱いが、それでも、魔王を名乗って周りがついてくる程度には実力はあるのだから」
ゾーイの言葉に、サムは腕を組んで唸るしかなかった。
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