一周年記念「ウルリーケ外伝2 家族」
「んー、平和な村だなぁ」
ウルリーケ・シャイト・ウォーカー改め、ウルリーケ・ファレルは、前世の記憶をすべて取り戻していた。
野盗の襲撃と、家族の危機、そして自身の覚醒があったのがもう一ヶ月前の出来事だ。
「みんないい人すぎるっていうか、大丈夫かって心配になるんだけど」
なんの躊躇いなく野盗を焼き殺したウルリーケに待っていたのは、家族と村人からの恐怖の視線――ではなく、惜しみない称賛だった。
正直、ウルリーケが拍子抜けしてしまうほどだった。
「父親があんなに可愛らしくて、母親がイケメンなのも理解できたというか、凄い家に生まれたな」
前世を思い出したウルリーケにとって、家族を害そうとしていた輩の命など、ないに等しい。
野盗たちだって、ファレル男爵領で好き勝手して逃げ出したとしても、いずれ国が動き、壊滅させられるだろう。
聞けば、冒険者ギルドが討伐部隊を編成していただろうし、遅かれ早かれ奴らの命は尽きていた。
前世を取り戻した反動で、少しテンションが上がっていたウルリーケは、師匠デライトが必殺として編み出した「獄炎」を使い、すべての野盗を焼き尽くした。
その結果、村人たちが「さすが聖女様の御息女だ!」と大喜びしたのだ。
もちろん、「聖女って誰?」となったのは言うまでもない。
そして、聞かされた衝撃の事実。
――なんと、聖女は父ミシャだった。
なんでも、父は敬虔な聖十字教会の信者の家に生まれ、幼い頃から回復魔法を使うことができ、近所の人たちの怪我や病を治療していたという。
その噂が教会にも耳に入り、スカウトしにきたらしいのだが、三十手前でもまるで美少女な父は、性別を間違えられてしまい、訂正しても信じてもらえず、気づけば聖女となっていた。
その後、各地を転々としながら人命救助に尽力し、爵位を得て田舎暮らしをしているのだった。
ちなみに、教会や国は父が男だと理解したようだが、「むしろいいじゃないか!」「男の娘が聖女とかみんな幸せ!」「こんなにかわいい子が女の子なはずがない!」と意味不明なことばかり言って、結局父は聖女のままだった。
正確にいうと、現在も聖女なのだが、現役からは退いているらしい。
話を聞いたウルリーケは、素直に「ひでー教会とひでー国だ」と思った。
そんな美少女で聖女の父親と結ばれた母グロリアは、娘の目からしても、息を飲むようなイケメンだった。
母も三十手前のはずなのだが、二十歳ほどにしか見えない絶世の美男子だ。
母は騎士を輩出する家系に生まれ、その一族で随一の剣の才能に恵まれた。
男として育てられたわけではないのに、振る舞いも出立も男性のようになってしまい、家族を悩ませたという。
その後、十五歳にして騎士団に入団すると、頭角を表していくこととなる。
一方で、女性たちからは大人気で、ストーカーなどが大量生産されたようだ。
グロリアは別に男性の振りをしているわけではないので「自分は女性です」と言っているのだが、「こんなに素敵な方が男性なわけがない!」「むしろ女性だからいいのです!」「お姉様ぁ!」と発狂する女性たちが多く、辟易したらしい。
その後、聖女の護衛に抜擢され、各地を転々としていくうちに、ふたりの間に恋心が芽生え結婚することになる。
そして、長女のエミリーが生まれ、長男のレスリーが生まれ、そして末っ子のウルリーケが生まれたのだった。
「エミリーお姉様はツンデレで、レスリー兄様は普通の悪ガキなのはある意味突然変異なのかもしれないな」
良くも悪くも、聖女と騎士の間に生まれた子供たちは普通だった。
エミリーは村の女の子たちの親分みたいな少女だが、面倒見がよく、心優しい子だ。外に出るよりも本を読んでいたいウルリーケに、一日どんなことがあったのか報告してくれる妹想いな子でもある。
ただし、ツンデレであり、お礼を言うと「べ、別にあんたのためじゃないんだからねっ!」と頬を赤くしていうあたり、もうお手本のようだった。
前世ではエリカというツンケンした妹がいたが、エミリーほど気合の入ったツンデレではなかった。
レスリーは、腕白少年だった。
葡萄畑のお手伝いよりも、木の棒を剣代わりにして男の子たちと勇者ごっこするのが好きらしい。
もちろん、とても普通のことだ。
ただし、ときどきやることがお馬鹿さんで、しょっちゅう怪我をしている。
その都度、父に小言を言われながら治療されていた。
そして、ウルリーケだ。
転生者であり、魔法の才能に溢れる少女だ。
両親は魔法が使える娘に大喜びしたが、同時に突然すぎる出来事に困惑した。
ウルリーケは隠すつもりがなかったので、前世の記憶があることを打ち明けたのだが、両親はあっさりそれを受け入れた。
あまりにも簡単に話が終わってしまったので、困惑気味になるウルリーケに、
「ウルリーケちゃんは、前世があろうと僕のかわいい娘だよ」
「ウルリーケに前世があろうと、私がお腹を痛めて産んだ子だ。その程度で、私たちの愛は揺らがない」
そう言ってくれた両親に、心から感謝した。
前世の両親も心から愛していたが、今の両親の間に生まれることができたことを感謝した。
――ウルリーケ・ファレルの幼少期は、素晴らしい家族と暖かい住民たちに囲まれてあっという間に過ぎていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます