36「ギュンターも素直じゃありません」②




「あのね、ギュンター。あまり邪険にしたらクリーちゃんがかわいそうよ」


 フランのその一言に、ギュンターはそっぽを向き、子供のように拗ねた声を出した。


「邪険になど」

「しているじゃない」

「だってあの小娘が僕からいろいろ初めてを奪うから!」


 どうしようもないことを叫ぶギュンターに、フランが大きくため息をついた。


「いい大人がみっともないわね。クリーちゃんの趣味を疑うわ」

「それは同感です」

「サム! フラン! 君たちは結局、僕の悪口が言いたいだけなんじゃないかな!?」

「とーにーかーくー! 子供のためにも戻って顔を見せてあげろって。生まれてくる子供が愛されてないとか、かわいそうだろう!」

「僕は、そんなつもりは」

「なら、歩み寄ってあげなよ。な」


 あまり強く言い過ぎても意固地になってしまうと考えたサムは、ギュンターの肩に優しく手を置き、言い聞かせるように声をかける。

 すると、渋々とであるがギュンターは頷いた。


「わかった」

「――お」

「このギュンター・イグナーツも男だ! したことの責任から逃れるつもりはない! 生まれてくる子供を大事にすると、亡きウルリーケに誓おう!」

「ですって」

「――――え?」


 サムが、玄関の外に声をかけると、ばんっ、と扉が大きく開かれ、少女が使用人たちを連れて屋敷に入ってきた。

 少女の顔を見て、サムとフランがにっこり、ギュンターは真っ青になる。


「まぁまぁギュンター様! このクリー! 我が子を大事にしてくださるギュンター様の優しさに今にも出産しそうですわぁ!」

「待った、今のなし! やっぱりなし!」


 クリーの顔を見たギュンターが大粒の汗を浮かべて、自分の発言をなかったことにして逃げ出そうとする。


「往生際が悪いんだよ!」


 ギュンターの襟首を掴んで、逃亡を阻止すると、そんな彼の首に、じゃらり、と鎖が巻かれた。


「なにこれー!?」


(ん? これ鎖から魔力を感じる。魔道具かな?)


 必死に首に巻かれた鎖を外そうと奮闘するギュンターだが、残念ながらびくともしない。

 そして、言うまでもなく、鎖の持ち主はクリーだった。

 にっこり、と可憐な笑顔を浮かべたクリーは、


「ウルリーケ様から多数の魔道具を承りました。ギュンター様が意地を張るようでしたら、調教してしまえばいいと、ご助言を兼ねて」


 とんでもないことを言い始めた。


「ウルリーケぇえええええええええええええええええええええええ!」


(うわー、ウルはクリーにそこまでしていたんだ。年貢の納めどきだね、ギュンター)


 周囲の警戒を疎かにし、クリーの接近に気づかなかったギュンターにそもそも逃げ道などないのだ。

 いつもの余裕がないのだろうが、戦闘の素人が近づいて気づかなかったのはなかなか重症だ。


「わたくしは衝撃を受けましたわ。――その手があったか、と」

「受けるなぁああああああああああああああああああ!」

「わたくし、愛されずとも愛してさえいればいいと思っていました。ギュンター様はつれなくされても、夜の営みが始まれば最低でも三度は愛してくださいますし、お父様とお母様はわたくしのことを我が子同然に可愛がってくださいます」

「言うなぁあああああああああああああああああああ!」


 媚薬を飲まされ、クリーがウルの洋服を装備してギュンターと営みを繰り広げているのは知っていたが、意外とギュンターもノリノリなんじゃないかなと疑いたくなった。


「そう、ギュンターは三度もね、元気ね」

「フラン……後生だから、その蔑んだ目をやめてくれないかな!」

「いえ、別に。素っ気ない態度をとっている女の子と、いざ情事になると三度もやることやっているなんて、屑ね、と思っただけよ」


 確かに、とサムも思わず頷いてしまう。


「だから無理やりなんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

「三度も出したら合意よ」


 それでもギュンターは自己弁護をしようと叫ぶも、フランに一蹴されてしまった。

 なんとか弁明の言葉を探すギュンターだったが、口をぱくぱくさせるだけで言葉が出てこないようだ。

 しばらくして、いろいろ限界に達したのか、白目を剥いて、ばたん、と倒れてしまった。



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