11「王女様も相談のようです」③
「レイチェル?」
突然の謝罪にステラは思わず妹の名を呼んだ。
「わたくしは、今までお姉様の陰口を、いいえ、お姉様のお立場を悪くするような噂を流していました」
レイチェルの独白は、ステラの心を苦しめるものだ。リーゼが案じてステラに声をかけようとするも、意外なことに悲しむような気配がなかった。
「レイチェル、顔をあげてください。わたくしは、すべて知っていました」
「――え?」
ステラの言葉に驚いたのはレイチェルだけでなく、リーゼも同じだった。
「あなたがわたくしのことを快く思っていないことは知っていました」
「でしたら」
「ですが、わたくしにとってあなたはかわいい妹です。悪く言われていたことを知ったときには傷つきもしましたが、それでもあなたはわたくしのところに顔を見せてくれましたし、何度も声をかけてくれました」
「――それは!」
おそらく、レイチェルは噂のせいで苦しんでいる姉を見たかっただけなのかもしれない。
口にこそしなかったが、リーゼはレイチェルの行動が善意からだとは到底思わなかった。
もちろんステラだって馬鹿ではない、レイチェルの行動理由くらい察していただろう。知りながら、その上で、受け入れていたのだ。
「引きこもったのはわたくしの勝手です。そんな中、意図があっても顔を見せて、会話をしてくれるあなたの存在がわたくしには嬉しかったのです」
「……お姉様」
「それに、紆余曲折ありましたが、サム様と出会い、妻になることができました。私は、今が幸せなのです」
本当に幸せそうな笑みを浮かべるステラの、本心はその一言に尽きるだろう。
辛いこともあった、しかし、彼女は今幸せなのだ。
ステラはまだ十六歳だ。悪い噂を流され、苦しんだ時間よりももっと長い幸せな時間が待っている。
もちろん、苦労はするだろう、ときにはサムと喧嘩だってするかもしれない。だが、それらを含め、今後自分が体験していくであろうすべてが待ち遠しい。
ステラにはレイチェルを責めるつもりなどない。甘いと言われるかもしれないが、自分が幸せに慣れたように妹にも幸せになってほしいと願うだけだ。
「――お姉様……本当に申し訳ございませんでした。わたくしは、お姉様が羨ましく、愚かなことを」
「わたくしを、羨ましいですか?」
「お父様から愛され、フランシス様からも深い愛情を向けられていたお姉様が、羨ましく、妬ましかったのです」
「レイチェルだってコーデリア様に」
「母はわたくしなどどうでもいいのです。あの方は、自分のために利用価値があるかなしかでしか判断してくれません」
「そうでしたか……しかし、お父様は」
「お父様は、国王として、父として尊敬しています。わたくしにも良き父として接してくれました。ですが、それでもステラお姉様への愛情が一番でした」
「そんなこと」
ない、と言うステラであったが、話を聞いていたリーゼはレイチェルの言葉通りだと思っていた。
クライド国王陛下がステラを特に大事にしていたことを知っている。
サムとの出会いだって、ステラに偏見がなく、将来有望な人物を娘のためにと引き合わせたのだとも理解している。
ただ、リーゼとしては、このことに口を挟むことはしなかった。
「わたくしはちゃんとした愛を知らなかったのかもしれません。ですが、デライト様に、初めて恋というものをしました。愛を知ったのです」
「あの、レイチェル様はサムを」
リーゼの疑問に、レイチェルは胸を張って、なぜかドヤ顔で言い放った。
「あんなのあなたたちへの嫌がらせに決まっているではないですか!」
「……開き直りましたね」
「申し訳ないと思っていますわ! わたくしが愛してもらえないのにみんなが幸せになっているのが腹立たしかったのですわ! ですが、謝罪します、ごめんなさい! 土下座でもなんでもしますから、デライト様をご紹介ください! あの方と、合体したいのですわ!」
「あら、まあ、レイチェルったら」
まさかまだ未成年の第二王女の口から「合体」などという単語が飛んでくるとは思わず、リーゼは目を丸くした。
ステラは、そんな妹を微笑ましく思っているようだが、リーゼは一応常識人として突っ込んでおくことにした。
「あの、仮にも王女なのですからもっと言い方を考えてください!」
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