10「王女様も相談のようです」②
「……あ、あの、今なんとおっしゃいましたか?」
リーゼは戸惑い気味にレイチェルに聞き返した。
「ですから、デライト・シナトラ様をわたくしにご紹介していただきたいのです!」
聞き間違いではないようね、とリーゼは確認するも、どのような理由があってレイチェルがデライトを紹介してほしいなどというのか理解ができない。
(……私の気のせいじゃないのなら、頬を赤くしたレイチェル様が恋する少女に見えるのだけど、まさかよね?)
デライトの名を呼ぶときに、心なしか声が弾んでいるようにも思う。
「レイチェル。デライト様とは、宮廷魔法使いの、デライト・シナトラ様でいいのですか?」
「もちろんですわ!」
くわっ、と目を見開き、がっくんがっくん頷くレイチェルに、今まで笑顔で接していたステラも少し引いた。
「し、失礼ですが、レイチェル様はなぜデライト様をご紹介してほしいなどとおっしゃるのでしょうか?」
少々、レイチェルの反応が怖かったが、リーゼはこれを訪ねなければ話が先に進まないと思い、恐る恐る聞いてみる。
すると、レイチェルは、瞳を潤ませ、恥ずかしそうにふたりに告げた。
「その、デライト様をお慕いしていますの」
「――はい?」
「まぁ!」
リーゼは自身の耳を疑い、ステラは妹の告白に手を打って驚いた。
「お恥ずかしいですわっ、ああっ、デライト様! あの日、オークニー王国との交流試合で、相手を一撃で倒したあのときの凛々しいお顔……思い出しただけで、わたくし、わたくしはぁああああああああああああっ!」
「……反応がギュンターに似ているのは従兄弟だからかしら」
自身を抱きしめてくねんくねんとするレイチェルは、リーゼの知る腹黒く癇癪持ちの少女とはだいぶ違った。
今までなら、紹介してほしい、ではなく、紹介しなさい、と押さえつけるように命令してきたはずだ。
恋は人を変えるというが、どうやら本当にレイチェルはデライトに懸想しているのかもしれない。
「レイチェル様のお気持ちを否定するつもりはありませんが、本気で言っているのですか?」
「もちろんですわ!」
「でしたら、それは少々都合が良いのではないでしょうか」
「リーゼ?」
レイチェルに対して、硬い態度となったリーゼに、ステラが若干困惑気味の声を出す。
リーゼは、ステラと目を合わせ、任せてほしいと訴える。
気持ちが伝わったのか、ステラは口を閉じ、リーゼに任せてくれた。
「不敬を承知で言わせていただきますが、レイチェル様はサムを手に入れようと第二王妃コーデリア様にお願いしていたはずです。それに、ステラ様のことも」
ちらり、とステラを一瞥する。
ステラを苦しめた悪い噂を流していたのがレイチェルだと言うべきかどうか一瞬迷った。
レイチェルだけが悪いわけではないが、彼女が姉を貶めようとしていたのは事実だ。
それでいながら、自分たちに頼み事をするとは図々しいにも程がある。
レイチェルが誰に惚れようと構わないが、こちらに頼み事をするのなら、まず言うべきことがあるはずだ、とリーゼは思う。
相手が王女だからといって、なあなあで済ましてしまえば、あとで困るのはリーゼたちであり、ひいてはサムに迷惑をかけるかもしれない。
姉から託された、愛する夫のためにも、リーゼは恨まれようと言うべきことを言わなければならなかった。
「――わかっていますわ」
癇癪持ちで有名なレイチェルだったが、リーゼの言葉に激昂するどころか、眉を八の字にして表情を暗くした。
「わたくしも図々しいお願いをしていることは承知していますし、お願いをするよりも先にすべきことがあることは承知しています」
――ごんっ。
レイチェルは、思い切り頭を下げて、テーブルに額を打ち付けた。
「――っ、レイチェル様!?」
「レイチェル!?」
これにはリーゼも、ステラも驚き慌てる。
しかし、レイチェルはそのままの姿で、謝罪の言葉を口にした。
「ステラお姉様、申し訳ございませんでした!」
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