68「ウルの気持ちです」




 歓声が響く中、ウルリーケ・シャイト・ウォーカーは幸せそうにしている愛弟子たちを笑顔で見守っていた。

 ジョナサンをはじめ、クライドや蔵人も号泣している姿は、少しだけ苦笑してしまう。

 腹黒い紫・木蓮でさえ、孫の結婚に心から喜んでいる様子だった。


(――まさか私の妹たちがサムと結婚するとはな。実際、こうして目にすると驚きばかりだ)


 リーゼとアリシアはもちろんのこと、花蓮と水樹のことも家同士の付き合いがあったので知っている。とくに花蓮は何度か挑まれて返り討ちにしたことを覚えている。ステラだけは、王族ゆえ接点がなかったが、愛弟子がいい女性たちと縁を紡いだことを嬉しく思う。

 サムは間違いなく幸せになるだろう。

 五人が、いや、ウルの予想ならば、他にも数名がサムに懸想しているので、いずれはもっと嫁が増えるだろうと思う。女同士は苦労するかもしれないが、みんなでサムを幸せにしてくれると信じている。


 リーゼたちは気にしていたようだが、ウルとしては妹たちに対する嫉妬心はない。

 サムとの関係は、かつてお互いに愛していると告げたときに終わったのだ。

 彼との幸せな思い出がたくさんある、それだけでウルは満足していた。今はただ、サムと家族が幸せになることだけを祈っている。


(……それにしても)


 ちらり、と隣に座る幼なじみを見た。

 昨日まで花嫁として参加する気満々で純白のウエディングドレスまで準備していたギュンターが、式で騒ぎ出すかと思ったが、カッサカサになっていてあまり動こうとしない。

 拍手などはしているが、いろいろ絞り取られたように精気が抜けてしまっているようだ。

 そんなギュンターの隣には、腕を絡めて幸せそうにしているクリーがいる。「次は、私たちの番ですわね」とリーゼたちをうっとりとした目で見ている。


(まさかギュンターにここまで入れ込む子がいるとは思わなかった。いや、ギュンターは昔からモテるんだよ。だが、あとでその変態性がわかって結婚相手にはちょっと、と言われるんだよな。ときにはそれでもいいと言う娘もいたが、代わりに私が嫉妬されたりして面倒だった。そう思えば、クリーはギュンターにちょうどいいのかもしれないな)


 聞けば、クリーもギュンターに負けず劣らずのようだ。

 似たもの夫婦でいいじゃないか、と納得する。

 腐れ縁の幼なじみではあるが、ギュンターに幸せになってほしい気持ちはある。

 サムの尻を追っているのはどうかと思うが、こうしてそんなギュンターをありのままに受け入れている娘を見つけたのだ。

 勝手にクリーがギュンターを幸せにするだろう。


(なによりも、結婚する以外の選択肢はなさそうだけどな。にしても、まさかギュンターがなぁ。蘇生してなにを驚いたかって、ギュンターがサムに入れ込んでいたのもそうだが、この事実にもなかなか驚きを隠せない。うん、これは利用させてもらおうかな)


 幼なじみから、視線を外すと、サムたちは陣内から退場し、教会を囲んでいた民にその姿を見せていた。

 最年少の宮廷魔法使いであり、国を救った経験もあるサムと、王女をはじめとする見目麗しい女性たちの結婚は良くも悪くも話題だ。

 新聞社も来ているようだ。


 花嫁たちがブーケを投げると、ギュンターとミヒャエルが我先にと手を伸ばしているのが見えた。しかし、お互いに邪魔をしたせいで、取り逃がしてしまい、その場に膝をついている。


 誰もが大切な家族たちに祝福の声をかけてくれることに、ウルは嬉しくなる。

 ギュンターとの結婚はいつですか、などと理解不能なことを叫んでいる人間もちらほらいるが、まあ、いいだろう。


(――さて、そろそろ私の時間も終わりか)


 もう少し持つかと思っていたが、想像よりも残された時間は短いようだ。

 結婚式を迎えた家族に告げるのは気が引けたが、今度は別れをちゃんと言葉にすると決めている。

 家族も同じことを望んでくれていると思う。


 この一週間、そして今日も、サムたちは誰ひとりとして悲しみを浮かべることはなかった。

 それはウルが望んだものだ。

 彼らの幸せに水をしたくなかったし、みんなの笑顔を魂に焼き付けておきたかったからだ。

 ウルは真っ赤なドレスを翻し、かわいい弟子と花嫁たちのもとに向かい祝福の言葉をかけた。


「――おめでとう」

「ありがとう、ウル!」


 この笑顔が見られただけで、蘇生した意味があったと確信した。

 ウルは、王都の空に向かい、魔法で花火を複数打ち上げた。

 みんながずっと笑顔でいますように、幸せになりますように、そう願う。


 ウルリーケ・シャイト・ウォーカーは、嘘偽りなく幸せだった。



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