69「お別れの時間です」①




「せっかくの結婚式の後だというのに、水を差すような真似をしてしまってすまない」


 結婚式を無事に終えたて屋敷に戻ってきた一同に、ウルは時間が訪れてしまったことを告げた。


「なにも結婚式の日に、こんなことになるなんて、空気を読めなくて悪い」


 サムやリーゼたちはもちろん、昨日に引き続き、どんちゃん騒ぎをしようとしていたジョナサンたちは驚きに硬直した。

 いつかは来ると覚悟していたが、あまりにも早すぎる。

 賑わうはずの屋敷の大広間がしんと静まり返ってしまった。

 苦笑いしながら謝罪するウルに、誰もが言葉を失う。


「――ウル!」


 そんな中、弾かれたようにサムが驚き彼女の名を呼んだ。

 無理もない。ウルの体が、淡い光の粒子を発していたのだ。


「ああ、もう時間か」


 落ち着いたウルに対し、一同は目を向く。

 彼女の指先が半透明に透けているのだ。


「ウル、それって」

「どうやらこういう結末らしい。まいったな」


 自らの指先を見て苦笑するウルに、サムが信じられないと震えてしまう。


「待ってくれ、ウルの最期って、そんなことがあるのか?」


 サムを含め、おそらくウルの命が再び尽きたとき、眠るように逝くのだと思っていた。


「私にも理解できないが、そのようだ。私は消えるらしい」


 ウルに今起きていることは、サムはもちろん、彼女自身も想定外なことだった。


(浄化が失敗した以上、ウルをまた失うことは覚悟していたけど、なにも残らず逝ってしまうなんて! そんなのないだろう!)


 サムが声さえ出せずに、あまりにもの不条理に憤っている間にも、彼女の体は世界にゆっくり溶けていく。


「――お別れだな」


 ウルの言葉に、家族たちが涙を流した。

 家族だけじゃない。この場に居合わせた、イグナーツ公爵家、シナトラ親子たちも突然すぎる別れに、涙した。


「愛弟子の結婚式の日に逝くなんて、不出来な師匠で悪いな。だけど、お前の幸せそうな姿を見ることができてよかった。幸せになるんだぞ、サム」

「――ああ。俺は幸せになるよ。絶対に」


 サムは、笑った。

 ウルを笑顔で見送ろうと決めていたからだ。

 誰もがサムに倣おうと、流れる涙をぬぐい、ウルの姿を目に焼き付けようとする。


「リーゼとアリシアのことを、家族のことを頼む。もちろん、ステラ王女、花蓮、水樹のこともな」

「もちろんだよ」

「よかった、これで安心できた」


 満足そうに頷いたウルは、サムの花嫁たちを見た。

 リーゼたちも涙を流しながらも、それでもちゃんとウルを見送ろうとちゃんと視線を合わせた。


「リーゼ、アリシア、ステラ王女、花蓮、水樹――サムのことを頼んだ。いや、そんなことをいちいち言う必要はないな。お前たち全員で幸せになってくれ」

「必ずサムと一緒に幸せになるとお約束します!」


 ウルの言葉に、代表してリーゼが返事をする。

 サムの妻となった彼女たちを見渡し、ウルは嬉しそうに笑った。


「お前たちがサムと結婚してくれてよかった。かわいい弟子と末長く仲良くしてくれ」

「はい!」



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