58「すごいのが現れました」①




「ご無沙汰しています、シャイト様」

「あーら、あなたがサミュエル・シャイトちゃんね。何度か遠目でみたことはあったけど、こうして近くで見るととても可愛いわねぇ。お姉さんの好みよ」

「――ひぃ」


 顔を蒼白にしたギュンターに連れられてウォーカー伯爵家に戻ったサムとウルを出迎えたのは、隣国オークニー王国に召喚された日本人であり、聖女でもある霧島薫子と、なんかムッキムキの肉体に魔法少女みたいな可愛らしい洋服を装備したマッチョなおっさんだった。


 本来ならアニメや漫画などで可愛らしい少女が身につけるはずの衣装が、これでもかと鍛えられたおっさんの肉体によって破れてしまいそうだと悲鳴を上げている。

 見ているこちらが、いつ破れてしまうのかと冷や冷やしてしまう。

 そんなムキムキのおっさん魔法少女が、自分のことを「姉さん」などと曰いながらサムに舐めるような視線を向けてくねくね腰を振る光景は、まさに悪夢の一言だった。


「……ギュンターが変態だと言うからまさかと思ったが、やはりお前だったか。ドミニク・ジョンストン」


 魔王や魔族の騎士と対面した時よりも、絶句し動けずにいるサムの代わりに、心当たりがあったウルが嘆息混じりに魔法少女の名を呼んだ。


「あらやだ、私ったら自己紹介もせずにごめんなさいね。私はドミニク・キャサリン・ジョンストン。スカイ王国に仕える宮廷魔法少女よ。お友達のようにキャサリンって呼んでね」

「――なぁに、それぇ」


 たくましい肉体をうねうねさせながら、野太い声でキャサリンが自己紹介をする。

 サムは耳を疑った。

 異世界が広いとはいえ、まさか魔法少女を名乗るおっさんがいるとは夢にも思わなかったのだ。

 しかも、宮廷魔法少女って、なんだよぉ、とサムはもう呆れていいのか、怯えていいのかわからない。


 正直言って、久しぶりに顔を合わせた薫子が霞んで見える。

 そんな聖女様は、キャサリンの隣で、サムたちとの再会を喜びニコニコしている。

 もしかしたら、彼女には隣の生物が見えていないのかもしれない。


 この場にいるのは、サムとウルだけではない。

 ふたりを連れてきたギュンターはもちろん、ウォーカー伯爵家当主夫妻と、サムの婚約者リーゼ、アリシア、花蓮、水樹もいる。

 だが、ギュンターとジョナサンこそ引きつった顔をして、キャサリンと極力距離をとっているものの、他の女性陣は平然としていて、「お久しぶりです」なんて気軽に挨拶をしていた。


(あれ? もしかして、この人がおかしいって思うのって俺だけ? いや、ギュンターと旦那様も怯えてるし、変だよね、この人変態だよね!?)


 一瞬、自分の感覚がおかしいかと不安になったが、男性はみんな怯えた顔をしているし、ウルもなんともいえない顔をしている。


「サム、気をつけなさい。ドミニク殿は、代々変態な家系の当主をされている方だ。見た目に油断、はできないだろうが、背後にも油断はするな。絶対にするなよ」

「代々変態って、なにそれ、魔王より怖い」


 ジョナサンが怯えたようにサムに説明してくれる。

 そんな彼のお尻に心なしか、力が入っているように見える。

 ギュンターに至っては、結界を展開していた。


「やぁねぇ、ジョナサンちゃんったら誤解を招くようなことをサムちゃんに言わないでちょうだい。めっ、よ。めっ」

「ひぃ、も、申し訳ない」


 ジョナサンが尻を押さえてキャサリンから距離を取り、謝罪する彼の姿は、伯爵とは思えないほど威厳がなかった。


「私たちジョンストン家は、初代国王様と一緒に魔王レプシーと戦い、建国のお助けをしたのよ。初代国王様が異世界人だったことはご存知かしら?」

「ええ、まあ」

「我が家の初代様は、初代国王様から、異国の魔法少女という世界を守護者として戦う少女たちの話を聞いてね、ひどく感銘を受けたの。以後、ジョンストン家では、由緒正しき魔法少女を輩出する家系になったわ」


 初代国王がなにを思って魔法少女の話をしたのか、サムにはわからない。

 ただ、届かなくても一言言っておかなければならない。


「――なにやってんの、初代国王! お前の生み出したのは魔法少女じゃねえよ! すっごく怖いなにかだよ!」



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