33「宮廷魔法少女と聖女です」②




「あーら、聖女様って聞いていたからどんな子が来るかと思っていたら、とっても可愛らしい子じゃない。異世界人っていいわよねぇ。艶やかな黒髪に、きめ細かい綺麗なお肌。もうっ、うらやましっ!」


 教会の応接室で、薫子を待っていたのは、なんとも言葉にし辛い人物だった。

 ざっと見て、年齢は四十代半ばから後半の男性だった。身長は二メートル近い長身で、体格も鍛えていますと主張するような厚い胸板と丸太のような手足だ。

 頭髪がないのは剃っているのだろう、きらりと光を反射している。

 たくましい肉体を持つ剃髪した男は、整えた眉と、ぱっちりとした瞳がなんだか怖いほど印象に残る。

 なによりも目を引いたのは、薫子が異世界で見た中でも一番の体格を誇る彼が、ピンク色のふりふりのスカートを履いていることだった。

 四十代のおっさんがピンク色の、それも少女ちっくな華やかで可愛らしい洋服を身につけているのは、なんというか、ホラーだった。


(へ、変態だ……ううん、違う違う、別にいいじゃない、男の人が女の子の格好したって! 絶望的に似合ってないけど、愛嬌のある顔がどこか不気味……じゃなくって、可愛げがあるようにも見えるし、うん、格好で判断しちゃ駄目よ、しっかりなさい、霧島薫子!)


 唖然としてしまっていた薫子は、内心口に出さずに己を叱咤した。

 外向けの笑顔を浮かべると、やや緊張気味に口を開く。


「あの、スカイ王国の方だとお聞きしたのですが」

「あらごめんなさい、私ったら自己紹介もしていないじゃない。――私は、ドミニク・キャサリン・ジョンストンよ。スカイ王国で宮廷魔法少女をしているわ」


(――今、宮廷魔法少女って言った!? 宮廷魔法使いじゃなくて!? え? 私が知らないだけで、そんな役職あるの!?)


 戦慄さえ覚えながら、薫子は平常心でいようと努める。

 そのために、舌をひっそりと噛んだ。


「……ドミニク様は、私のことをお迎えにきてくださったのですか?」

「もう、フレンドリーにキャサリンって読んでちょうだい。私のね、魂の名前なの」

「……キャサリン様、それで、あの」

「私は、スカイ王国クライド・アイル・スカイ国王陛下からの命令を受けて薫子ちゃんをお迎えにきたの」

「わざわざすみません」

「いいのよ。薫子ちゃんは、スカイ王国にとって大切な人ですもの」

「私が、ですか?」


 ドミニク――いや、キャサリンの言葉を聞き、薫子は若干戸惑う。

 少なくとも、薫子自身は、スカイ王国で重要視されるような人間だと言う認識はない。

 あくまでもオークニー王国に不信感を募らせた結果、スカイ王国へ亡命するとしか考えていなかった。


「異世界からこちらの世界に召喚されて半年ほどだったわよね。たったそれだけの時間で、スカイ王国が誇る宮廷魔法使い紫・木蓮に匹敵する回復魔法を使えるなんて、王国としては将来の宮廷魔法使い候補として大切にしたいに決まっているじゃない」

「……私が、宮廷魔法使い、に?」


 薫子は、そんな未来を想像することができなかった。

 キャサリンが微笑む。


「必ずなれるとは限らないけど、薫子ちゃんは木蓮様のお弟子になるんでしょう? なら、可能性は十分にあるわ。聞いた話だと、現時点でも失った手足なら取り戻すことができるほどの回復魔法を使えると聞いているわ」


 薫子は頷いた。

 オークニー王国には回復魔法使いは少ないため、自身がどれくらいの実力を持っているのかわからないところもあるが、スカイ王国滞在中に見せてもらった紫・木蓮の回復魔法には数段劣っている自覚はあった。

 木蓮の回復魔法は素晴らしかった。治療跡さえ残さないその技術に見せられて、つい突発的に弟子入りをお願いしてしまった。

 薫子の申し出に木蓮は驚いたものの、笑顔で快諾してくれた。

 それもあって、薫子はスカイ王国へ行くことを決めたのだ。


「こんなことを言うのは、ちょっと本意じゃないんだけど、薫子ちゃんの回復魔法は異質よね。普通なら、失敗と成功という経験を繰り返し、魔法技術を高めていくのに、薫子ちゃんは最初から呼吸するように回復魔法を自在に操ったと聞くわ」

「はい。私は、この世界に来たと同時に、回復魔法の使い方をすべて取得していました。……もしかしたら漫画とかにある異世界転移の特典なのかもしれません」

「特典がなんなのかわからないけど、薫子ちゃんが学んで取得したものではないのよね」

「はい」

「あ、違うわよ、責めているわけじゃないの。実際、そういうまるで神に愛されたような天性の持ち主っているからね。私もそんなひとりなんだけど、まあ、私の話はいいわ。そんなあなただからこそ、期待していることがあるの」

「期待ですか? 一体、どんなことを?」


 薫子が疑問を浮かべると、キャサリンは笑顔を消し、至極真面目な顔をした。




「薫子ちゃん……あなた、蘇生魔法は使えるかしら?」




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