26「姉妹の会話です」③
「――んん? ちょ、まった、それってあっちの話? え? まじ? サムってそうなの?」
「その、お恥ずかしながら、負けっぱなしです」
「うわぁ、そっかー、そうなんだー。あのサムがねぇ。ふぅん。なんていうか、成長したなぁ……で、いいの? うーん、ま、いいや、それで、えっと、みんなで頑張っているわけだ?」
話題が変わり、ウルが食いついた。
「ず、随分と食いついてきますね」
「そりゃ食いつくさ! 私には縁もゆかりもない話題だったからね!」
ウルとしては、男女の関係に誰かとなることを想像したことがなかった。
きっと恋愛などせず、誰かを愛することなく生きていくものだと宮廷魔法使いになる前から考えていた。
どうしても自分が誰かを愛するなどと想像ができなかったのだ。
しかし、人生とはわからない。二十歳を超えてから出会った、まだ幼い少年に恋心を抱いてしまったのだ。
サムとの関係は心地が良かった。
彼が自分のことを好いてくれていることはなんとなくだがわかっていたこともあり、関係を進めようとか思わなかった。
なによりも、まだ成人していない少年に手を出していいものかと悩みもした。
だが、まさか、自分が躊躇っていたサムとの関係を、妹が進めているとは思わなかった。
なんだかんだ姉妹だ。男の好みがよく似ている。
それだけに、サムが妹とどのような夜の生活をしているのか気になってしまった。
「その、まだ複数人で、というわけには。私たちにも羞恥心はありますし。それに、その、まだサムと関係を持っているのは私だけですので、なかなか」
「――は?」
「私はその場の勢いで結ばれたというのもありますが、アリシアたちは順序よく少しずつ関係を築いている途中ですから、みんなで夜を共にというのは難しいのです……お姉様? どうかしましたか?」
「はぁあああああああああああ!? サムは、これだけ女がいるのに、リーゼ以外に手を出していの!?」
「え、ええ、まあ、今のところは」
「とんだへたれ野郎だな!」
ウルは震えていた。妹の言葉が本当ならば、可愛い愛弟子はとんでもないへたれである。
きっと本人がウルの感情を知れば、顔を真っ赤にして「大きなお世話だよ!」と叫んだだろう、が、この場にはいない。
「今はリーゼが身重だから相手ができないじゃない?」
「えっと、はい」
「じゃあ、その間、サムが持て余しているムラムラはどこに!?」
「そこは私も気にしているのですが、尋ねることもできず」
「――まさか、ギュンターと」
「いえ、流石にそれはないでしょう。もし、あればあのギュンターが隠しているわけがありませんもの」
「そうだったわね。あの馬鹿なら嬉々として報告してくるはず」
耐性がないが興味のある話題に、少し理性が遠ざかっていた。
姉妹揃って深呼吸をして頭を冷やすことにする。
「にしても、男ってわからないね。結婚が決まった婚約者なんだから、遠慮なく全員に手を出してしまえばいいのに」
「私たちとしては、手を出して欲しいと願っています。その、順序も大切ですが、ときには男性から強引に迫られたいといいますか、はい」
「そっかー。妹たちの結婚も大事だけと、サムが婚約者全員に手を出すまで成仏できないわね」
「そんな理由を設けられてもサムが困惑すると思うのですが」
「あはははは、逆に手を出さなくなったりしてね。にしても」
ウルが腕を組み、首を傾げた。
「最近の若い子はお行儀がいいっていうか、なんていうか。私の知る女って、それはもう肉食動物のように手を出しまくっていたんだけどねぇ」
脳裏に浮かぶのは変態エルフと、変態公爵だ。
あの変態たちは今も元気に変態しているのだろうか、とちょっとだけ気になった。
「それはそれでどうかと思うのですが」
「あいつらが特別なだけか。生き返ったついでに、あの変態たちにも会っておこうかな」
友人、と呼べるほどの関係ではないが、せっかくこうして王都にいるのだ、様子を見るくらいしたいと思う。
(さて、リーゼたちの今後を心配していたけど、意外と大丈夫そうだから安心した。サムが少々へたれているのが気になったが、うん、それはあとで直接言うとして)
リーゼたち婚約者の仲がいいことに安堵した。
少なくとも、今のところは、ウルが杞憂しているようなことにはならないだろう。
姉として、今後サムに厄介な女が近づかないことを祈る。
サムだけが幸せになればいいわけではない。妹たち婚約者が、笑顔でサムと一緒に幸せになってくれることを、ウルは心から願うのだ。
「さて、いろいろリーゼと話したけど、一番言いたいことをまだ言ってなかった」
「なんでしょうか?」
「――お腹の子、私を超える魔法使いになるよ」
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