3「みんなと再会です」①




「信じられん、ウルがまさか」

「……ああ、本当にウルが」


 ウルが生き返り戻ってきたことで、ウォーカー伯爵家は夜中にもかかわらず騒然となった。

 無理もない、サムでさえ、まるで夢のような出来事だと思っている。

 あの日、ウルを看取ってからまだ半年も経っていない。あのときの辛さや悲しみをようやく乗り越えようとしているのに、まさかの復活だ。

 喜び以上に、戸惑いが大きかった。


(そもそもウルはどうやって生き返ったんだ?)


 疑問は尽きないが、今は素直に再会を喜んでおくことにした。

 とくに死に目にも会えなかった家族は、涙を流して再会を喜んでいる。

 ジョナサンとグレイスは言うまでもなく、リーゼとアリシア、エリカ、そしてウルを知る使用人たちがみんな涙を流していた。


「まったく親不孝者め! 病気なら病気だとなぜ打ち明けなかったのだ! しかも、出奔した挙句死んでしまうとは! サムがいなければ、葬儀さえしてやることができなかったのだぞ!」

「あなた、落ち着いてください。もう過ぎたことで責めるのは酷ですわ」


 ジョナサンが娘を抱きしめながら叱り、グレイスが宥めている。

 ウルも父の言葉に、きまずい顔をして頬をかいていた。


「申し訳ない、お父様、お母様。でも、弱っていく私を家族に見て欲しくなかったんだ」

「……どんな理由があって生き返ったのかわからず、不安もあるが、まずはこうして再び言葉を交わし抱きしめることができたことを神に感謝しよう」


 ウルは、ジョナサンに続き、グレイス、エリカ、アリシアと抱き合い、そしてリーゼの番となった。

 リーゼも姉との再会に喜んでいるが、どこか表情が暗い気がする。

 それはリーゼだけではなく、アリシアと花蓮、水樹も同じだった。

 ウルは、リーゼを強く抱きしめ、それから微笑んだ。


「それにしても、まさかリーゼとアリシアがサムとねぇ。しかも、ステラ王女と、紫・花蓮、雨宮水樹か。しかもフランも怪しいとか、なんというか我が弟子ながらなかなかやるな。流石だ」

「いや、なにが流石だかわからないけど、リーゼ様たちにはよくしてもらっています。もちろん、旦那様、奥様、伯爵家のみなさま全てにです」

「私の大切な家族と大切な弟子が仲良くしてくれているようでなによりだ。私は嬉しいよ、サム。お前が私の家族と家族になっていたなんて。お前を残したことだけが気がかりだったんだが、それも杞憂だったようだな」

「ウルが繋いでくれた縁だよ」

「ははは、なら私のおかげだな。感謝していいぞ」


 そんなことを言うウルは、サムのよく知るウルだった。

 思わず、口元が緩んでしまう。

 今まで胸の内に抱えていた黒い感情が消えていく気がした。


「あの、お姉様」

「ん? リーゼどうした……ていうか、みんな揃って神妙な顔をしてどうしたの?」


 ウルが不思議そうな顔をしていると、リーゼをはじめ、アリシア、花蓮、水樹が揃って頭を下げたのだ。

 これにはウルはもちろん、サムも目を見開いた。


「ちょっと?」

「リーゼ様! みんな、どうして」

「お姉様と再会できたことは心から嬉しく思っています。どんな形であれ、こうしてまたお言葉を交わせたことに感謝しています。しかし、謝罪しなければなりません。私たちは、サムと婚約しました。サムのことを心から愛してしまったのです」


 サムは絶句した。

 まさかリーゼたちがウルに謝罪するなど思わなかったのだ。

 サムは確かにウルを愛している。しかし、だからと言ってリーゼたちを愛していないわけではない。

 ウルへ抱く愛情と同等の愛情を彼女たちに抱いているのだ。

 婚約者たちのことが、心から大切なのだ。

 サムが口を開こうとすると、ウルが手で制した。


「謝罪する必要はないさ。むしろ、私は感謝の気持ちを伝えたい。サムのことを愛してくれてありがとう」

「お礼だなんて、私たちこそ、サムと引き合わせてくださったお姉さまに感謝します」

「よかった。サムがひとりじゃないってわかっただけで、こうして戻ってきた意味があった。サム、以前にも言ったが、幸せになりなさい」

「はい」

「リーゼ、アリシア、花蓮、水樹、ステラ様がこの場にいないのが残念だが――サムのことを頼んだぞ」


 ウルからサムを託された婚約者たちは力強く頷いた。

 それに満足したウルは、リーゼたちを次々に抱きしめた。


「ああ、よかった。これで私も安心して逝ける」

「――っ、お姉様、それはどういう!?」


 しかし、ウルの言葉によって、一同は絶句することとなった。



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