24「なにやら企んでいるそうです」①
日本人葉山勇人は、スカイ王国とオークニー王国の交流のパーティーに参加しながらも退屈さを感じてあくびをしていた。
せっかく他国に来たというのに、代わり映えしない女たちが自分を取り合って騒ぐだけ。実に煩わしい。
最初こそ、自分のために美女美少女がムキになっている姿を見ることを心地よく思い、自尊心が満たされていたが、最近では少々鬱陶しさを覚えるようになっていた。
(ったく、ギャーギャーうるさいなぁ)
女の中には、勇人を束縛しようとする者や、独占を企む者もいるので相手にしていて疲れる。
その筆頭が、オークニー王国第三王女ディーラ・オークニーだ。
プラチナブロンドのシミひとつない髪を腰よりも長く伸ばし、北欧系の端正な顔立ちをした美少女だ。
年齢も十八歳と勇人よりひとつ年上で、異世界に召喚した喜びと、故郷から了承もなく呼んでしまった罪悪感から、なにかと面倒を見てくれた人だった。
最初は感謝していたし、彼女と恋人になり、体を重ねると、もうディーラだけいればいいと思えた。
だが、勇人の欲望は大きく、とくに魅了の魔眼があるとわかると、欲望に従い次々と新しい女を手に入れハーレムを作り続けていた。
そのハーレムにも、正直飽きがきている。
自分がほしくて魅了しておきながら、酷い扱いではあるが、勇人を咎められる者はいない。
そもそも魅了の魔眼を持っていることは隠しているし、勇者である自分に意見できるような人間はあまり多くない。
(せっかくスカイ王国に来たのに、こいつらの相手をしなきゃいけないなんて……うんざりするな。結局いつものメンツがついて来たし、ああ、もうっ、僕の計画が狂うじゃないか!)
声に出さない分別はあるものの、勇人の対応はお世辞にもいいものではなかった。
現に、先ほどから自分を取り合って夢中になっている女性たちを放置している。
だが、この世界の主人公たる自分はなにをしても許される――などという妄言を信じて疑っていないため、彼の態度が改められることはない。
(そろそろステラ王女を僕のものにしたいんだけど、どうしようかな。目を合わすには近くに行かないといけないし)
何度か魅了の魔眼を使ってみてわかったのは、決して使い勝手がいいものではないということだ。
魅了するまで、目と目を合わせて少し時間が必要だ。これは人によって違う。数秒の女もいれば、十数秒必要な女もいる。
中には、魅了に抵抗しようとする女もいた。
魅了の魔眼はどうやら完璧ではない。意思の強さや、心から慕う人がいる場合は、効かないことがあるというのを、オークニー王国王宮の図書館にあった古い文献を調べて知った。
だが、今のところ、魅了に抗えてもどの女も屈している。
ゆえに、欲しているステラも問題なく自分のものになると信じて疑っていなかった。
舌舐めずりをして獲物を見ていた勇人の背後から、女たちの口喧嘩する声と、それを止めようとする同郷の霧島薫子が嗜める声が聞こえた。
(はぁ、またか。これで何度目だよ、ったく、みっともない女たちだな)
勇人は、自分で魅了しておきながら、周囲が見えなくなるほど夢中にさせている女性たちに内心文句を吐き捨てる。
いい加減、捨ててしまいたいと思うこともあるが、そもそも勇人は魅了の解き方を知らない。
仮に知っていたとしても、せっかく手に入れた美女美少女を手放すもの、少々もったいないと思えてしまうため、煩わしさを覚えながらもなんだかんだ文句を言いながら手放す気はない。
(そういえば、霧島薫子だっけ。こいつも知らない間に聖女扱いだな。好みじゃないけど、聖女扱いされているなら僕の女にしておいたほうが得かな? あ、だめだ、騎士たちが信仰するみたいにこの女を崇めているんだよな。別に敵に回しても怖くないけど、鬱陶しいのは間違いないからやめておこうかな。それに、僕の目的は忌々しい日本を思い出させる女じゃない、ステラ王女だ)
どうしても薫子を見ていると、日本での暮らしを思い出してしまうので腹が立つ。
こうして異世界の主人公となってもなお、忌々しい記憶が消えてくれないことを勇人は不快に思っていた。
(まあ霧島薫子はいつでも手に入れることができるから、今はいい。早くステラ王女を、あの白く美しい女を僕のもにするんだ。彼女こそ、主人公の僕にふさわしい!)
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