19「アリシア様が好きな人は……え?」②
「えっと、それって」
「そのままの意味よ。本来なら、あの子があなたにちゃんと想いを伝えるべきなんでしょうけど、ちょっと時間がなくてね」
「時間ですか?」
「先方がね、話を進めたがっているの。悪い縁ではないのだけど、アリシアは断りたいのよ。その理由をお父様たちに打ち明けたようなのだけど、その、私に遠慮してしまったみたいで、サムに想いを告げるつもりはないみたいなの。でもね、今更でしょう?」
アリシアに縁談の話が来ていることはサムも知っていた。
確か、アリシアの幼なじみの少年だと記憶している。
だが、まさか、アリシアが自分のことを好いてくれているとは思ってもいなかった。
もちろん、家族として友人として、良好な関係を築けている自信はあったが、それ以上の感情を、となるとやはり驚きが隠せない。
しかし、嫌ではない。むしろ、嬉しく思ってしまう。
「まあ、確かに、もう四人も婚約者がいますからねぇ」
アリシアはサムへの恋心をリーゼに申し訳ないと隠していようとしたらしいが、確かに今更である。
サムにはリーゼの他に、ステラ・アイル・スカイ第一王女、紫・花蓮、雨宮水樹という三人の婚約者がいるのだから。
「ふふふ、サムも苦労するわね。それで、どう? 真面目な話をすると、アリシアのことを受け入れてほしいの」
「リーゼ様?」
どこか深刻そうな顔をしてアリシアを勧めてくるリーゼに、サムが不思議そうに首を傾げる。
姉妹仲がいいことは知っているので、アリシアを五人目の婚約者として推すのもそう不思議ではない。
サムとアリシアの関係が良好なのを知った上なのだろう。
実際、サムも、アリシアを嫌だとは思えなかった。
「妹だからという贔屓目もあるけれど、ここでアリシアを失恋させてしまうのはかわいそうなの。もし、自棄になってしまって望まない結婚でもしてしまったら……なんて思うと怖いのよ」
リーゼの不安がわかった。
普段、大人しいアリシアだが、いざというときには行動力があるたくましい一面を持つ子だ。
もしそんなアリシアが、自棄になって望まない相手と結婚してしまったら、待っているのは不幸な日々だ。
もちろん、アリシアがそのような短慮な行動をするとは限らないが、可能性がゼロではないためリーゼも心配なのだろう。
ただ、一番の問題はサムの気持ちだった。
「リーゼ様。俺は、その、アリシア様のことは好きですよ。でも」
「でも?」
サムはアリシアのことを考える。
彼女と一緒にいる時間は楽しいものだ。
アリシアの好きな物語は、サムも好きだし、彼女とふたりで子竜の世話をする時間も大切なひと時だ。
最初、出会ったばかりの頃は、男性が苦手だと言うこともあり距離感があったが、今では肩と肩が触れ合うほど近くにいても問題ないほど打ち解けている。
それが嬉しかった。
そんなアリシアが、もし別の誰かと望まない結婚をする、と考えるとモヤモヤする。
もう結論は出ていた。
「この続きは、アリシア様本人に言うことにします」
そう言って、サムはリーゼに片目を瞑ってみせる。
サムの意図することがわかったのだろう。
リーゼが嬉しそうに、笑顔を浮かべてサムに抱きついた。
「もう、サムったら! ありがとう! アリシアのことも幸せにしてあげてね!」
「頑張ります」
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