7「ステラ様とお会いしました」①




 サムは王宮の中を国王自ら案内されていた。

 一般人のサムはもちろん、王族の人間でなければおいそれと立ち入ることのできない居住エリアへと連れられていく。


「ここがステラの部屋だ」


 だいぶ王宮内を歩き、たどり着いたのは女性騎士二名が守る部屋の前だった。

 どちらの騎士も国王の姿を見つけると、深々と礼をするが、続いてサムを睨むように見据える。


(うわー、歓迎されてない)


 明らかに不審者か異物でも見るような視線を向けられ、サムは肩を竦めた。


「よい。この者は余が招いたのだ。警戒する必要はない」

「かしこまりました」


 国王の一言で、騎士たちはサムから視線を外した。


「ステラはどうしている?」

「本日も、お勉強に励んでおります」

「最近は、寝る間も惜しんでいるようでして、夜中まで灯りがついています」

「――また勉強量が増えたのか? なぜ、そこまで」

「…………」

「なにかあったのだな?」

「そ、それは」


 騎士のひとりが口籠る。

 国王は話すように、促した。


「言い辛いことか? 構わぬ、言うといい」

「では、失礼致します。レイチェル様が、先日ステラ様のお部屋を訪れました」

「レイチェルが? わざわざなにをしに来たと言うのだ?」


 レイチェルというのは、この国の第二王女だ。

 第一王女ステラとは母親が違う王女だったとサムは記憶している。


「とても言い辛いことですが、レイチェル様は、先日参加したパーティーにて、貴族たちの間でステラ様を不義の子だと噂し、笑っているのだと……ステラ様ご本人におっしゃりに来たのです」

「……レイチェルめ。わざわざそのようなことをステラに言いに来たのか。姉を見習い少しでも勉強をすればいいものを」

「なにを詳しくお話しになったのかわかりかねますが、その後からステラ様がよりお勉強に励むようになってしまいました」


(第二王女様は性格が悪いなぁ。わざわざ姉が話題のネタになっていることを言いにくるか、普通?)


 まだ会ったことも見たこともない王女レイチェルにサムは嫌悪感を抱いた。


「扉を開けよ」

「しかし」

「構わぬ、開けよ。いくら勉学に励んでいるとは言え、毎日部屋の中にいるだけでは健康にもよくない。それに、ステラに会わせたい者がいるのだ」

「会わせたい方とはそちらの少年ですか?」

「うむ。そなたたちはここから離れぬゆえに知らぬと思うが、新しく宮廷魔法使いとなり、王国最強の魔法使いとなった若き魔法使いだ。そして、ステラの結婚相手でもある」


(……いつの間にか結婚相手になってるし)


「――っ、それは失礼致しました。どうぞお通りください」

「うむ」


 騎士たちの手によって、扉が開かれる。


「ついてくるといい、サムよ」

「はい」


 国王とともに王女の部屋に入った。

 娘とはいえ、女性の部屋に勝手に入ってしまうのはどうかと思われたが、国王は構うことなく足を進めていく。

 扉を潜り、もう一枚の扉を部屋の中にいたメイドが開くと、ようやく王女の部屋の中へと入った。


 部屋の中は、とてもじゃないが王女のものとは思えなかった。

 天蓋付きのベッドや衣装ダンス、鏡台があるのは一般的な女性とそう変わらないが、その隙間を縫うように書物や資料が所狭しと置かれているのだ。

 そして、窓際の机にかじりつくひとりの女性の姿があった。

 カリカリと筆の音が小さく部屋の中に木霊している。まるで、王女というよりも学者の部屋の中に迷い込んだ錯覚を受けてしまった。


「――ステラよ」

「っ、ち、父上! 申し訳ございません、気付きませんでした」


 名を呼ばれた王女は、椅子から飛び跳ねると、声の主が父親だと気づき、慌てて床に膝を着く。


「よい。楽にしろ。それにしても、勉学に励んでいるようだな」

「はい。まだわたくしには勉強が足りていません」


 そんなことを笑顔で言う王女ステラの髪は事前に聞いていたように真っ白だった。

 まるで雪のように白い直毛を、腰まで伸ばしている。

 白い髪と同じく白い肌は、おそらく部屋に引きこもって勉強ばかりしているせいだろう。あまり日の光を浴びているとは思えない。

 四肢も細く華奢であり、全体的に細かった。

 窓から刺す光を浴びた彼女は、幻想的な美しさを宿していた。

 父親とは違うが、整った端正な容姿は目を引くものがあり、洗練された美しさがあった。


「もっと勉強し、誰からも王女と認められるようになりたいと考えています」


 父王に笑顔を浮かべるステラだが、サムにはどこか彼女が疲れ、焦り、追い詰められているように見えた。



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