29「まさかの展開です」②




 灼熱竜はサムの言葉を理解しきれなかったのか、しばらく黙っていた。

 しかし、しばらくして右足を大きく上げ、地面を踏み砕く。

 轟音が響き渡り、地面が蜘蛛の巣状にひび割れる。


 彼女は、大きく深呼吸して感情を落ち着かせようとしているように見えた。

 怒り、恨み、そして子供たちを取り戻したい焦り、そのすべての感情を押さえ込み、サムに短く告げた。


「説明しろ」

「わかった」


 サムはようやく聞き耳を持ってくれた竜にアルバートのことを伝えた。

 サムはもちろん、おそらく国王も子供を攫ったことは感知していない。

 アルバートとは因縁があり、決闘した。

 その決闘で今後の憂いを断つために殺害したということを。


「――わかった。我が子を攫った人間を貴様が殺したのなら、それはそれでいい。我自身が手を下せなかったのは口惜しいが、もう死んだ人間など気にしてもしようのないことだ。だが、我が子を取り戻さなければならぬことにかわりはない」

「そのことなんだけど、よかったら子供の救出を俺に手伝わせてくれないか?」

「なに?」

「いや、さ。悪いのはアルバートと奴と組んでいた人間だろ。あんたは被害者じゃん。だからさ」


 アルバートの尻拭いをするわけではないが、奴のせいでこの国が滅ぼされるのは望まない。

 仮に最後まで灼熱竜と戦い抜いたとしても、どちらかは死ぬだろう。


(どうしてアルバートのせいで命を賭けて竜と戦わないといけないんだよ! しかも、相手は子供を取り戻したいだけの母親なんだぞ! ふざけんな、アルバート!)


 とにかくアルバートが悪い。

 サムも竜も被害者だった。

 なら、被害者どうしで戦うなんてナンセンスだ。


「……人間などに手を借りたくはないが、子供たちのためだ致し方あるまい。わかった。我はどうすればいい?」


 自分の提案を飲んでくれたことに、サムは心底ほっとする。

 少なくとも、これで灼熱竜と戦う必要はなくなった。


「子供たちの居場所ってわかるんだよね?」

「人間の街に独自の結界が張られているので正確ではないが、おおよその居場所はわかる」

「なら、まず国王様に報告させてくれ。あんたがこの国に危害を加えないことと、子供たちを探していることを伝えるんだ」

「そんなことする必要はあるのか?」

「はっきりと子供の場所がわからないのなら、人手は必要だろ?」

「…………」

「それに、力任せに取り戻そうとして子供たちになにかあったらどうするんだ? 国に警戒されたままだと面倒だろ?」


 なによりも、話が拗れて結局彼女と戦うことになっては困る。

 国王たちが竜の事情を汲んで協力してくれるかどうかも不明だが、少なくとも彼女の目的が子供たちであり、スカイ王国をどうこうする気はないと伝えておかないと面倒でもある。

 それ以上に、この事態をアルバートとその愉快な仲間たちが起こしたのだ、と誰かに言わなきゃやってられないというサムの私情もあった。


「わかった。貴様の提案を飲もう」

「ありがとう」

「だが、もし我が子たちになにかがあれば、貴様を殺すことはもちろんだが、貴様の国も滅ぼしてくれる!」

「それでいいさ。その時は、俺も全力で戦うよ」


(頼むから、竜の子供たちに危害を加えていませんように)


 サムは自身のためにも、国のためにも、そう願わずにはいられなかった。



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