61「決着がつきました」




「――いや、なんで全裸なんだよ!?」


 ギュンターが生きていることは魔力を感じ取ってわかっていた。

 だが、まさか全裸で再登場するとは思ってもおらず、サムが呆れた声を出す。


「ふ、ふふふふ、素晴らしい。素晴らしい実力だよ、サム。僕が全力で張った結界を易々と破壊しただけではなく、僕を殺さないように最後に手を抜いたね。それでも、スーツに仕込んであった結界符がなければ危なかったけどね」


 ギュンターは結界術以外にも守りを固めていたようだ。

 そのおかげで大きな怪我はない。

 せいぜい裂傷と、スーツが自身の代わりに弾け飛んだくらいだ。


「あんたが変態でも、ストーカーでも、ウルの知り合いを殺したりしない」

「なるほどね。君は僕同様にウルリーケが大事なんだね」

「当たり前だ」

「…‥わかった。改めて、君をウルリーケの唯一の後継者として認めよう。実力も確かに見せてもらった。約束通り、宮廷魔法使いの空席に推薦もしよう」

「ついでに、俺を妻にするってアホな発言も撤回してもらうぞ」

「……しかたがないね。僕は敗者だ、勝者に従おう。君を妻にしないと誓おう」


 ギュンターが約束してくれたことでサムは大いにほっとする。


(あー、よかった。これで身の危険が去った)


 尻の心配をしなくてもいいことに心から安堵する。


「その代わりに!」

「――うん?」


 ギュンターが大きな声を上げ、嫌な予感がした。

 彼の瞳はキラキラと輝き、まっすぐにサムを見つめている。


「僕が君の妻になろう!」

「…………は?」

「ふふふ、いい妻になることを約束しよう。君を支え、君に尽くそうじゃないか」

「いやいやいやいやいや、なんの解決にもなってないから! 俺が望んだのはそういうことじゃねーんだよ! 妻の立場が嫌だったわけじゃないから! 夫だったら納得するわけじゃないから!」


 それ以前の問題として男と結婚するつもりはさらさらないのだ。

 しかも、変態ストーカー男などごめんだ。

 だが、ギュンターは聞いていない。


「遠慮することはないよ。わかっている。ウルリーケの代わりではなく、サムとして見てほしいのだろう? それなら安心していいよ。このギュンター・イグナーツはサミュエル・シャイト個人を心から愛し、尽くすことを約束する!」

「どこが安心できるんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 サムの絶叫がウォーカー伯爵家の中庭に木霊したのだった。

 勝ったはずが、負けた気分になる。



 ――サムは後に今回の戦いをそう語った。




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