20「あっという間に四年が経ちました」




 ――四年後。


 サム・シャイトは師匠ウル・シャイトと一緒に世界中を転々としていた。

 目的だった異世界を巡ることが叶ったのだ。

 毎日が冒険だった。

 見知らぬモンスター、様々な部族、土地によって発展が違う国、すべてが新鮮でおもしろかった。

 ウルと一緒なら、世界の果てまで行くことができる。

 そんなことさえ思った。


 魔法面でも、ウルはサムの才能を伸ばそうと、時間を惜しみなく使ってくれる。

 サムが持つスキル『切り裂くもの』は、当初宝の持ち腐れだと思われていた。

 しかし、自称天才魔法使いを名乗るにふさわしい実力を持っていたウルは、サムとは違いスキルを魔法で有効に使えばいいという答えを出した。


「切ることに特化するって、別に剣だけの話じゃないだろう。魔法を使って切ればいい」


 そんなウルの考えに、サムは目から鱗がこぼれた。

 そして、すぐに実践した。

 魔法を斬撃にして放つ、炎や氷を纏わせた腕をまるで剣のように振るうことでスキルを生かすことができるとわかったのだ。

 身体強化した肉体から放たれる手刀でも、スキル『切り裂くもの』は有効だった。

 すると、手数を増やすためだと徒手空拳を叩き込まれた。


 魔法の訓練に追加して、肉体での実戦訓練。

 一言で言えば、過酷だった。

 魔法も体術も優れているウルは、泣き言を許してくれない厳しい師匠だった。

 十歳の少年だからといって手加減もしてくれず、いつだって本気で鍛えてくれた。


「死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃうぅううううううううううっ!」


 何度サムが叫んだかわからない。

 しかし、師匠は緋色の髪をなびかせると、


「死ぬと言って実際に死んだ奴はいないから安心していい」


 そんなことを言って、手を緩めるどころか更なる激しい訓練を課してくれた。


「このっ、嗜虐趣味! いじめっ子! ドS!」


 サムも意外とタフだったようで、ウルに文句を言いながらも過酷な訓練をすべて乗り越えてきた。

 そして、気づけば、


「へ?」


 サムは、魔剣に匹敵するほどの一撃を放てるようになっていた。

 これはウルのお墨付きであり、サムが自分に自信を持つことができたひとつの重要な出来事だった。


 さらにふたりの日々は続く。

 ウルが最も得意とする火属性魔法の適性がサムにあるとわかると、


「どうせなら火の魔法の本場で学ぶとしよう。日の国へ行くぞ!」


 と、海を越え東の島国に渡りもした。

 日の国は閉鎖的で、当初サムたちは歓迎されなかったが、敵意を向けてくる人間を片っ端からぶっ飛ばしていたら、いつしか実力を認められ、気づけば王家の客分にまでなってしまった。


 そのおかげで秘伝の魔法をいくつか学ぶことができたのは幸いだった。

 これにはサムだけではなく、まだ見ぬ魔法を取得できたことにウルも大いに喜んだ。

 日の国国王から直々に「我が国に仕えないか?」という誘いを丁重に断り、大陸に戻ったサムたちは、再び各地を転々とした。


 強いモンスターがいると情報が入れば、サムのいい訓練になると倒しに行く。

 死にかけながらもサムがなんとか討伐を終えると、報奨金を受け取り、そのお金でちょっと豪遊するとすぐに修行。

 そんな日々を繰り返していた。


 サムがウルと出会い、二年が立つころには冒険者ランクもBとなった。

 魔法の才能も順調に伸び、ウルが驚くほどの実力を身につけていった。

 サムに苦手な属性魔法はない。

 これはかなり稀なケースらしい。

 誰でも得意な属性魔法と苦手な属性魔法があるのだが、サムは火属性と闇属性を得意としながら、他の属性も満遍なく使うことができたのだ。


 初期から使っている身体強化魔法も数段上のレベルのものを習得し、さらに限られた極わずかの魔法使いだけが使えるという飛翔魔法も、難なく覚えることができた。

 これはサムの才能もあったのだろうが、ウルの教えもよかったと言わざるを得ない。


 ウルは、実に魔法に真摯だった。

 難しい魔法も、根気強く覚えるまで繰り返し教えてくれた。

 ときにはサムが音を上げても、励まし、ときには叱りながらも、習得するまで付き合ってくれた。

 ときにはスパルタな一面もあったがそれはご愛嬌だろう。

 飛翔魔法を覚える際には、上空から叩き落とし「死にたくなければ覚えろ」という荒技も使うことがあったが、サムはそんなウルを心から慕った。


 魔法使いとして遥かな高みにいるウルを、師匠として憧れ、女性としても恋い焦がれてしまうようになった。

 前世を含めて、初恋だった。

 だが、まだサムは成人していない子供だ。

 素晴らしい魔法使いであるウルとは、年齢的にも実力的にも釣り合いが取れていない。

 ゆえに、サムはひとつの目標を決める。


「いつかウルに並ぶほどの魔法使いになったら告白しよう」


 そう決意し、努力をし続けた。

 ある意味、一番の原動力だったのかもしれない。


 サムは、その後も魔法の訓練、モンスターや犯罪者との戦闘、休息という名の豪遊を繰り返し、あっという間に四年の月日が流れていった。

 前世を含め、これほどまでに充実した時間はなかった。


 ――それゆえに、サムは思い違いをしていた。


 ウルとの日々がずっと続くと思っていた。

 愛する人との冒険、魔法を取得する楽しみ、強くなっていく確信。

 こんな幸せな日常が、永遠に続くのだと信じて疑っていなかった。




 ――だが、それは、サムの勘違いでしかなかった。




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