19「運命の出会いです」④
「なかなかサムも大変な人生を送っているね」
転生したこと以外を全て話し終えると、苦笑いを浮かべたウルがそんな感想を口にした。
「大きなお世話です」
田舎の男爵家の長男に生まれながら、剣の才能がないゆえに跡取りになれず、腹違いの弟によって家を追い出されたこと。
しかし、サムはこの状況を喜んでいることを伝えた。
そんなサムに、ウルは「変わっているね」と笑った。
「しかし、ラインバッハ男爵家か、聞いたことがないな」
「まぁ、田舎の貴族ですから」
「それもそうか。ところで、サムはこれからどうするつもりなのかな?」
「冒険者登録はしているから、お金を貯めて、しばらくしたら各地を転々としてみようかなって」
「なんて子供らしくない淡々とした目的なんだろうね。もっと、大物になってやるとか、家の奴らを見返してやる、とかないのかい?」
「特にないですね」
「じゃあ各地を転々として、なにか目的でもあるのかい?」
「俺は、この世界を見て回りたいんです」
「――おお! 私と同じじゃないか!」
サムの答えに、ウルが嬉しそうに瞳を輝かせる。
「もしかして、ウルさんも?」
「そうだ! 私も世界のいろいろな場所を見て周り、世界中の様々な魔法を取得することを目的とする旅をしているんだ」
「世界中の魔法を?」
「君も魔法が少しでも使えるなら思わないか? 多くの魔法を学び、取得し、魔法使いとしての高みに登りたいと」
「思います!」
「そう言うと思っていた。君はどこか私に似ている。もしかしたら、君が私を見つけたのも、波長が合ったからかもしれないね」
まるで同志を見つけたようにウルは赤毛を振り乱して喜んでいる。
サムも、自分と同じように世界中を見て回ろうとしている人と出会えたことが嬉しかった。
「あ、でも、俺に魔法の才能があるかわからないんです。せいぜい身体強化魔法しかできないし」
「身体強化も単純だが意外と使うのは難しいんだけどね。よし、これもなにかの縁だ。私が『視て』やろう――鑑定」
こちらに視線を向けるウルの右目に魔法陣が浮く。
サムは、まるで内側を覗かれているような錯覚を覚えた。
しばらくすると、ウルが小さく唸った。
「まさか、こんなとこで出会うことができるなんて」
「あの、ウルさん?」
「少年! いや、サム!」
「は、はい?」
ウルに、突然両肩を掴まれて、油断すれば唇が触れそうなほど至近距離に彼女の顔が迫る。
「君には、私には劣るが、ずば抜けた魔力と魔法の才能があるぞ!」
「――っ、本当ですか!?」
「もちろんだ。私はつまらない嘘をついたりしない。そして、才能ある君に、さらなる朗報がある!!」
「朗報?」
「喜べ! このウル・シャイトがサムを弟子にしてやろう!」
「はい?」
「よろしい。いい返事だ」
「ちょ、待って、今のは返事じゃなくて、困惑して聞き返しただけで」
急に弟子入りと言われて慌てるサムを置いてきぼりにして、ウルはどんどん話を進めてく。
その勢いは凄まじく、サムには止めようがなかった。
「今日から、サム・シャイトと名乗るといい!」
「待って、ウルさん! 待って、お願いだから待って!」
「私はずっと自分の後継者になることのできる人間を探していた。私の学んだ魔術を全て継承するこのできる、才能ある人材を、だ」
「ま、まさか、それって」
「そうだ。それが、サム、お前だ!」
整った顔がこれでもかと近づいているのに、ときめいている余裕さえない。
鼓動が早くなる。
だが、それはウルの顔が近いからではない。
「俺にそんな才能が?」
震える声で吐き出したのは、期待に満ちた問いかけだった。
ウルは力強く頷く。
「ある! 約束しよう! サムはいずれ最強に至る魔法使いになる! いや、私がしてみせよう!」
「俺が、最強の魔法使いに?」
なれるのか、と考えてしまう。
異世界に転生して一年、剣の才能がなく魔法に縋るしかなかった、自分に、そんな才能があるのかと疑問だった。
しかし、ウルの瞳はどこまでも真っ直ぐで、サムの才能を疑ってる素振りさえなかった。
(――信じたい)
「これは運命だよ、サム。こんな辺境の森の中で、偶然出会った私とお前が、お互いに求めているものを持っている。私は後継者を、サムは優れた師を」
ごくり、とサムは唾を飲み込んだ。
緊張に体が震え、心臓の鼓動が煩くなる。
そんなサムから一歩離れ、ウルは再び手を伸ばした。
(これは、きっと運命の出会いだ)
ウルの言う通り、お互いに欲していたものを持っている。
これが運命でなければ、なんだというのだろうか。
自称天才魔法使いのウルがどれほどの実力なのか、サムにはわからない。
だが、堂々とした自信に満ち溢れる彼女の言動に、賭けたくなった。
サムはおもむろにウルの手を取る。
彼女の手は、意外と小さく、指は細くしなやかだ。
彼女の手が、サムの手を力強く握り返した。
「よろしくお願いします。ウルさん」
「私のことは師匠と呼ぶといい。今日からサムは――私のものだ」
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