1「どうやら異世界転生したそうです」



「信じられないけど、俺って異世界転生したんだなぁ……こういうのって漫画や小説の出来事だと思っていたよ」


 地球で社会人をしていた青年は、異世界でサミュエルという少年に転生してしまったようだった。

 メイドや執事はサムと愛称で呼んでいる。

 サム少年は九歳で、今までの九年間の記憶もちゃんとある。

 どちらかといえば、サムが地球人だった前世を思い出した、という感覚に近い。


(俺って死んだのか? テンプレ的な神様に会うこともなにもなかったんだけど)


 転生してから何度となく考えるのは、『なぜ転生したのか?』だった。

 無論、考えて答えがでるものではないのだが、つい考えてしまう。


「だけど、まさか、腹違いの弟に木刀でこれでもかと殴打されて死にかけていたなんて……異世界って怖いな」


 サムは、剣の訓練と称して、一つ年下の腹違いの弟にしこたま剣で殴打されたらしい。

 当たりどころが悪く、また悪意があったらしく、サムは意識不明となり生死の境を彷徨ったらしい。


 おそらく、この一件がきっかけで前世の記憶に目覚めたのだと推測している。

 不幸中の幸いというべきか、後遺症もない。

 サムの言動がいつもと少々違うのも、事故後の後遺症ということで解決されている。


(――俺が死んで転生したように、サム少年も死んでしまったから、俺がいるんだろうな)


 おそらくサム少年の人格は、意識不明になったときに死んだのだ。

 その結果、今の自分がいることを喜べばいいのか、嘆けばいいのかわからなかった。


「……考えてもしょうがないか。それよりも、これから俺がどうするべきかを決めないといけないな」


 サムはベッドの上であぐらをかき、腕を組む。

 サム少年の記憶から、この世界はモンスターが跋扈するファンタジー世界だということはわかっている。

 魔法もあるらしいが、魔法を使えるのはほんの一握りらしい。

 魔法使いとして成功できる人間はさらに少なく、とても希少らしい。


「異世界に転生したんだから、異世界ライフを満喫したいんだけど……俺に魔力があるのかどうかもわからないんだよなぁ。剣の才能は皆無だってもう知っているんだけど」


 サムの家は、ラインバッハ男爵家という田舎に小さな領地を持つ貴族だ。

 これといって目立ったものは領地になく、ぶっちゃけ貧しい。

 数少ない自慢といえば、当主にあたる父親が、剣一本で成り上がったことくらいだろう。


 そのせいもあって、ラインバッハ家では、とにかく剣が使えなければ駄目だという家風があるそうで、物心つく前からサムは剣を握らされていた。

 しかし、不幸なことに、サムには剣の才能がまるでなかった。

 剣を振れば手からすっぽ抜け、盾も満足に構えることができない。

 剣だけではなく、武器武具の類の才能が、壊滅的だということだ。


 そういうわけで、サムは父親から無能として扱われている。

 すでに剣の訓練さえする必要はないという放置具合だった。



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