獣鬼獣従
潜田
明けない夜の卒業生
第一話 三年三組の十人
目を開けると、そこは見慣れたはずの俺たちの教室だった。ぼんやりとする意識の中、まるで居眠りでもしていたようで中々思考が定まらない。
『あれ……? 俺たち、確かこれから卒業式でさっきまで廊下で待機……してたよな』
そう。俺たちは、
『それが、なんで教室に……』
呆然と辺りを見渡すために顔を上げれば、そこには見知った顔が揃っていた。
『えっ。なに……? 私、なんで教室で座ってるの? しかも床?』
『あれ? 数、少なくない?』
床に座っていた俺たちは、全部で十人だった。三組の合計は三十三人。約三分の一しかいないメンバーを見渡し、誰がいて誰がいないのかを確かめる。
『にしても暗いな。よし、電気を点けてくるよ』
暗闇の中、真っ先に立ち上がって電気を点けに行ったのは三組でも級長を務める我らがリーダー
『なんなのよ、わけわかんないっ……!! なんで突然こんな訳わかんないことになるのよ!』
そう泣き叫んだのは、
『きぐねちゃん、大丈夫だよ……。きっとすぐ他のみんなや先生と会えるから』
きぐねに優しく声を掛けるのは、クラス一優しい聖女ならぬ
『はっ、はは……。オワタ。やっと卒業式ですって思ったら、最後の最後でこんな意味不明展開……。いやでもこれ、まだみんなといられるっていう良イベ? ……いやない、これはないわ』
体育座りでもじもじとしながら、モゴモゴと呟くのは
『……暗いな』
正座。ピンと伸びた背筋。
『机ってそのままにしてたよね? なんか凄いグチャグチャだね』
栗色の髪を揺らしながら首を傾げるのは
『……ったく、なんだってんだいきなり……。外もやけに静かだな』
ハヤブサよりも大きくて、芽々よりも扱いが難しかったのが
『ここは……? あれ……私、確か……』
キョロキョロと辺りを見渡す、小さな女子生徒。二年生から転校してきた
『いやぁ。なーんか面白いことになっちゃってるよね〜』
三年間を共にした。しかし俺は、未だにこの
そして暫くすると、散らかった机や椅子に苦戦していた千之助が電気を点けてくれた。何故か全ての蛍光灯が付くことはなく、黒板寄りの一つだけに明かりが灯った。雑然とした机や椅子、床にはプリントや文房具が落ちていたが……何よりも注目すべきは黒板だった。そこは朝、数人の女子たちの手によって鮮やかな別れの言葉が描かれたはず。それなのに、今は全く別のものに塗り替えられている。
【羽ヶ者学園高等学校 三年三組の皆様
皆様には、この学校から脱出して頂きます。現在この学校は我々の手によって異界と化しています。容易には外の世界には出られません。皆様の力と勇気を存分に発揮し、見事この異界学校から脱して下さい。
では、健闘を祈ります】
これは、卒業式を迎えられず、終わることのない夜に閉じ込められた……三年三組の物語。
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