第31話:驚き

 俺は夢も見ずに眠っていたようだった。

 それも二日二晩もの長い間だ。

 流石にそれだけ眠ると喉が渇いてたまらない。

 目覚めて直ぐに、貪るようにテーブルの上の水差し全部の水を飲んだ。

 飲んで直ぐに尿意にも気がつき、急いでトイレに駆け込んだ。


 生理現象が落ち着くと、カーミラが水差しを用意してくれたことに気がついた。

 あまりの嬉しさに小躍りしそうになった。

 あの何事にも無関心なカーミラが、俺のために水を用意してくれた。

 これほど嬉しい事はない。


 だが同時に力を失くしたカーミラの儚げな姿が思い浮かんだ。

 身体中の血が一気に足元に下がった。

 顔面蒼白になっているのが自分でも分かる。

 こんなに早く復活してしまったら、カーミラを殺した連中が必ず勘づく。

 もう一度襲ってくるのは確実だ。


 どう考えてもルークとクロスケとダンボのために早く復活してくれたのだ。

 自分で復活時期を選べるのなら、長い時間をかけてヴァンパイアハンターが死んだ後に復活すれば、もう一度同じヴァンパイアハンターに襲われる事はない。

 神祖ヴァンパイアが地球の願いで生まれた者なら、自然の摂理に従えばそういう復活の仕方になるはずだ。


 追い込まれて初めて俺は真実に気がついたのかもしれない。

 このままではカーミラが今度こそ確実に殺されてしまう。

 完全な消滅を迎えてしまうかもしれない。

 ここは何が何でも俺の血を吸ってもらわなければならない。

 今度こそ殺されても血を吸ってもらう。


 決死の決意をしてカーミラのいるであろう居間に来たというのに。

 そこに眠る前に見た儚げなカーミラはいなかった。

 今回ヴァンパイアハンターに殺される前と同じ、力に満ちたカーミラがいた。

 本来のカーミラの力とは程遠いのは分かる。

 だがそれでも、もう一度殺されても復活するくらいの力があるのが分かった。


 カーミラの周りには五頭に犬達が幸せそうに寄り添っている。

 序列に従っているのだろう、ヒュウガ、ヤムチャ、ダンボ、クロスケ、ルークの順番にカーミラに近い場所に居る。

 ルークが最下位なのが妙におかしかった。

 おかしさと同時にがっくりと力が抜ける感覚があった。


「あのなあ、カーミラ、俺がどれだけ心配したと思っているんだ」


「ふん、心配するしないはそなたの勝手だ。

 そもそもそなたの勝手のせいでわらわは滅び損ねてしまったのじゃ。

 しかもこれで次に殺されても滅ぶことができないのが分かってしまった。

 全部そなたの所為であろう」


 確かにカーミラから見ればその通りだろう。

 だが身勝手かもしれないが絶対にカーミラを殺させない。

 その為にどうすればいいかはもう分かっている。

 もっと死にかけの犬猫を集めるのだ。

 そうすれば情に厚いカーミラは仕方なしに血を吸い力を取り戻す。

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