第15話:魔導書

 ヒュウガが教えてくれたドアを開けると、そこは書庫だった。

 図書館や学校の大きな図書室ほどの規模ではないが、立派な書庫だった。

 この洋館に相応しい立派な書庫で、和室で言えば十二畳くらいの部屋の全壁面と、人が楽に通れる幅で数多くの本棚が並べられていた。

 しかもその全てに、とても立派な装丁の本がぎっしりと詰まっている。

 初めて見るが羊皮紙で作られている歴史的価値がある高価な本なのだろう。

 

「ワン」


 ヒュウガがひと言鳴いて地下墓所から出て行ってしまった。

 ここに案内した事で恩は返したという堂々とした後ろ姿だった。

 カーミラもヒュウガもいない地下墓所は、とても恐怖感を誘う場所だった。

 直ぐに逃げたい気持ちになったが、今逃げ出すわけにはいかなかった。

 恐怖に震える手で一冊の羊皮紙本を取って開いてみた。


「なんじゃこりゃあ」


 などと言った言葉が口から出てくる事もなく、愕然とするだけだった。

 全く読むことができないのは、今まで俺が積み上げてきた学力が低すぎるからだ。

 日本語以外の言葉なのは分かったが、英語かフランス語かも分からない。

 いや、もしかしたらスペイン語やポルトガル語かもしれない。

 とてつもない価値があるモノかもしれないが、それも分からない。

 いや、カーミラがここまで厳重に隠しているのだから、とんでもない価値がある。


「なんじゃこりゃあ」


 今度は本当に驚きの声を上がてしまった。

 ざっと書庫の本の背表紙を見ていたら、見覚えのある字で書かれた栞が、一冊の分厚い羊皮紙本に張られていたのだ。

 俺はあの最低の糞親父の手の中で踊らされているのか。

 そんな事は絶対に嫌なのだが、今更カーミラを見捨てられない。

 いや、俺ごときがカーミラを見捨てる見捨てないなどと言うのはおこがましい。ただ俺がカーミラの側にいたいだけなのだ。


「この本は人間がヴァンパイアの真祖になるための魔導書だ。

 だか使いこなすには内容を完璧に理解しなければいけない。

 書かれている言葉はラテン語だが、読めるように努力できるか。

 人間を捨ててヴァンパイアになる事はできるか。

 本当にカーミラを愛しているのなら、ラテン語を完璧に習得して、ヴァンパイアになる覚悟を示してみろ」


 栞に書かれている糞親父の言葉に、心の芯にまで怒りが沸き起こった。

 あまりの激情に地下墓所で叫びだしそうになった。

 だがここで叫んでしまったら、図書室を見つけた事をカーミラに悟られる。

 ここでこの魔導書をカーミラに取りあげられるわけにはいかない。

 この魔導書は絶対に確保して完璧に習得しなければいけない。

 俺は魔導書を持って自分の部屋に戻った。

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