第14話:隠しドア

 俺は人間の言葉を話せないヒュウガについつい愚痴を言っていた。

 ヒュウガを恨んでいるわけではないが、誰にも話せない想いを聞いてくれるのはヒュウガだけしかいなかったのだ。

 カーミラに俺の悪巧みを白状するわけにはいかなかったし、友達などいない俺には、胸にたまったどす黒いモノを受け止めてくれるに人などいないのだ。


 だからどうしてもヒュウガに頼ってしまったのだが、迷惑そうな表情で聞いていたヒュウガが、何か思いついたのか俺に付いて来いというように一声鳴いた。

 それが俺の単なる思い込みではない事は、俺がちゃんとついてきているのか、時々振り返って確かめながら前を歩くヒュウガの姿で明らかだった。


 普段はカーミラの側を離れたがらないヒュウガが、俺を従えて食堂を出て行くのを、カーミラが胡散臭そうに見ていたが、何も言わなかった。

 ヒュウガが俺を案内したのは地下墓所だった。

 俺は一瞬で屋根裏部屋に隠してあった金塊の事を思い出した。

 カーミラが使わない棺桶の一つに、馬鹿親父が金塊を隠していると思ったのだ。

 だがヒュウガが俺に教えてくれたモノは、そんな生易しいモノではなかった。


「ワン」


 ヒュウガが、普段カーミラが使っている上座の棺桶の向こうにある壁に向かって鳴き、ポンポンと壁を叩いたのだ。

 それで俺が思ったのは、馬鹿親父が地下墓所の隠し扉を見つけて、その中に金塊を隠したという事だった。


 俺は少々慌ててしまい、開けようとしていた棺桶の角に思いっきり足の小指をぶつけてしまった。 

 あまりの痛みに思わずしゃがみ込んでしまったのを、ヒュウガが馬鹿にしたような表情で見ていた。


 確かに馬鹿にされても仕方がない状況だが、心が傷ついたのは確かだ。

 命を助けた犬に馬鹿にされる恩人なんて、情けなさすぎるだろう。

 だが働きたくない病に侵されている俺は、秘密の地下室一杯に金塊が隠されているのを想像してしまっていたのだ。

 隠し部屋一杯の金塊、想像するだけでよだれが流れる。


「ワン」


 ヒュウガが俺の考えを打ち消すような冷たく馬鹿にしたような声で鳴いた。

 犬の鳴き声の中に感情が読み取れるのかと言われるかもしれないが、その時は確かに読み取れたのだ。

 だがそのお陰で俺もようやく冷静になれた。


 あの身勝手でだらしなく守銭奴な糞親父が、地下室一杯の金塊を残しておくわけがないのだ。

 屋根裏部屋に金塊を一つ残していただけでも奇跡的な出来事なのに、莫大な量の金塊を残しておくはずがないのだ。

 あるとしても、隠し扉に金塊が一つだろうと思い、ようやく冷静になれたのだ。

 だが、そんな俺の考えを嘲笑うかのように、ヒュウガが見つけてくれたモノは、壁にあったのは小さな隠し扉ではなく、人が通れる大きさの隠しドアだった。

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