第12.5話
「ファレイーロさま? なんで統括魔法士を送り込まなかったんです?」
「んだよキーロ、割り込むなよ。それと船団長って呼べって言ってんだろ」
「相応しい働きをしたら呼びますよ。割り込んだのは通信士が限界だったからですよ。どうするんです、他の船との連絡が取れなくなりましたよ」
「あ? いらねえだろ、そんなん?」
おい、とその場の水夫たちの心境が一致する。単独航海の船であれば、それも考え方の一つではある。危険を知らせる通信や無事を告げる通信自体は魔法具で代用が利くし、定時連絡などはそれで十分だ。だがこの船は船団を組んでおり、しかも護衛対象は碌な武装も外装もないただの商船である。足手まといを作らないためにも、有事には密な連絡が必要だ。少なくとも三交代、欲を言うなら四人でローテーションを組ませて四交代としたいところだ。
「……で、統括魔法士は? アロガン伯爵様がご用意くださると」
「ああ、断った! 馬鹿高い給料を要求しやがったからな。親父様もそれでいいって言ったしな!」
「「「「「「断ったぁぁぁぁ!?」」」」」」
「馬鹿かこいつ」「馬鹿だこいつ」「違約金払ってでも降りるか」「泥船かよこれ」などなど、水夫たちの心からの呟きが漏れ聞こえ、キーロと呼ばれていた青年は固まっていた。
(馬鹿高い給料? 当たり前です、あれが使えればそれだけで一生を約束されたようなもの。こんな旗揚げの船団に来る以上は、よほどの老練者なのに)
ぱくぱくと声に出せない抗議を叫ぶ彼に、流石にマズイと思ったのか、ファレイーロは流石に譲歩を口にした。
「なんだよ、だったら今やってる奴雇えばいいだろ。水夫の二、三人分なら出してやるよ。あ、それでいいじゃん? 次の港まで雇って、そこで首切っちまえば余分な金はいらねえじゃん!」
「そんな扱いでついてくるはずないでしょう!? だいいち、通信出来なくなってるんです、どうやって承諾させるんですか!?」
「えー? そんなん、行き先一緒なんだからさ、港で話つければいいじゃん。こっそり雇ってあったんだってことにしてさぁ。あー、それだと口止め料込みで四人分くらいは払った方がいいか。けっこうな出費だなぁ」
胸算用を始める彼に、水夫たちの意気が冷えていく。
「……しばらく、一人で考えていて下さい。他の船と連絡を取ってきます。お前たち、帆を至急で治しなさい。無理そうなら、どこかへ寄港しましょう」
了解という応えと共に水夫たちは動き出す。
船橋から見える範囲は静まりかえっていて、今し方まで帆を切り裂くような魔物がいたなど信じられないほどの穏やかさだ。
「……とんでもない魔法使いですね」
感嘆の声が漏れて、ファレイートがキーロを睨む。
「なんだよ。だから雇っちまおうって「この船どころか船団ごと、沈められるでしょうね」
敢えて言を遮り、キーロは言い聞かせるように見解を告げた。まったく、大した魔法使いだ。
「了承のない障壁魔法に統括魔法を仕掛けてあっさりと制御して、しかも解放を利用して海魔獣を始末するとか、あれは相当に場慣れしてますよ。放浪旅団? 冗談でしょう、風浪旅団の元帥だと言われても僕は信じますよ。あんな人に喧嘩を売って無事でいられただけ儲けものですよ」
その後、ファレイーロ率いる北洋傭兵船団の噂を聞いた者はない。
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