タルパでもイマジナリーフレンドでもないお前は誰なんだ

うたまろん

第1話 突然の声

 9月の終わり頃、肌寒くなってきたのでお気に入りのコートを出して買い物に出かけた。歩道のない道を歩く時いつも車が来てることに気付かなくて注意されることが多いな、そんなことを思いながら道路の端に寄って歩いていると突然頭の中に声が聞こえた。


「今日はちゃんと人に言われたこと守れてんじゃん、その調子その調子」


 時々幻聴や幻覚のようなものを見ることはあったが、こんな感じで自分を褒めてくれる声が聞こえるのは初めてて驚いた。しかし、いつもの事だとあまり気にせず橋を渡って歩道に行こうとした時だった。


「ここ一通だから!左見て左、車来てんだろうが。危ねぇから交差点では周りみて歩けや」


 自分を、守る声?罵声や陰口が幻聴として聞こえることはあっても、自分を守る声なんて聞いたことがなかった。そしてなにより気になるのが、口の悪さや関西弁、声の質が自分そっくりだったことだ。


 ほんの興味本位で声をかけた。

「お前、誰だよ?」


 幻聴に話しかけるなんてどうかしてる、分かっていても今まで体験したことの無い幻聴だったから声に出して話しかけてしまった。スーパーの駐車場で一人で話してるのを見られたかと思うと恥ずかしかった。その時、返事が来た。


「別に声に出さんでも頭ん中で声掛けてくりゃ話できるぞ、ほらそこのおばちゃん不振な目で見てる、とっとと買いもん済ませて家帰るぞ」


 会話ができた。こんなこと初めてだ、まさか前にネットで見た情報を頼りにタルパを作ろうとしていたのが成功したのか?それともいつも一人でネットサーフィンしてるのが寂しくてイマジナリーフレンドでも見えてるのか?買い物も忘れてスーパーのトイレに逃げ込んだ。


「いや、別にうちタルパとかイマジナリーフレンドとかそーゆーのとちゃうから。まぁ、何かは言う必要ないと思うけど、お前に悪意を持った存在じゃねぇってことは約束するよ」


 悪意を持った存在じゃない、それだけで少し安心した。そして脳内で話しかけてみた。

「聞こえる?あの、名前なんて呼んだらいい?うちのこと守ってくれるん?」

 馬鹿らしいとは思いつつもとりあえず名前を聞いてみた。すると今度は脳内ではなく耳元でハッキリと声がした。


「名前は教えらんねぇな。でもせやな、守るっつーかサポートしてやるよ。お前に出来ねぇことをうちは出来る。だからなんかあったら指示してやるからちゃんと従えよ?お前危なっかしいんやし」


 サポートしてくれる。サポート……確かに自分は発達障害のせいか、個性なのかわからないが何をやってもミスばかりで注意力の欠片もない。それを助けてくれるのなら、悪いやつじゃないんだろうな。

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