現実世界でダンジョンに潜るにはいろいろと大変なようです。

えちだん

第1話 プロローグ

今、佐久間サクマ 修一シュウイチの眼下には瓦礫の山が広がっていた。

周りは昼間のように明るいが上を見上げると太陽はなく、ドーム状の岩肌が広がっている光景からここが地上・・とは違うことを佐久間に改めて認識させた。


身体が強張りその場に釘付けになりそうだったが、自らの心臓が佐久間を鼓舞するように高鳴りかろうじて前へと歩む。

そうして歩いていると、視界に動くものをとらえる。


目視で一メートルはどの体躯タイクだろうか。四つ足で地面を駆け、見ただけでもわかるほど分厚い皮を全身にまとい、毛でおおわれている。


イノシシだ。


佐久間の心臓が早鐘を鳴らし始める。気が付くと全身から汗を流し、右手に持っている刃渡り30㎝の出刃包丁を握っている右腕が手汗でぐっしょりに濡れていた。それに気づき服のすそで汗をぬぐう。汗をぬぐっている間も猪から目を離さない・・・否、目が離せなかった。その理由は明確に佐久間は理解していた。


今から自分だけで右手に持っている包丁で猪を狩らなければならないからだ。


心臓は相も変わらず早く鼓動している。

まるでやめろと言っているようだ。

息を思いっきり吸い込み腹にため込み弱気な考えと一緒に鋭く吐き出す。

目の前にいる猪を睨みつけ、覚悟を固めてて走り出す。

包丁を両手で構え、走る。

猪はこちらを気にしてはいない。

身体を前倒しにして、歯を食いしばりながら恐怖を耐え、駆け抜ける。

猪と佐久間の距離が瞬く間になくなっていく。

猪まであと7歩、4歩、2歩・・・・


猪と接触した瞬間、壁にぶつかったような衝撃が佐久間を襲った。

両手に握りこんだ包丁は手元にはなかった。

そのことを認識した瞬間、視界が周る。

佐久間の体が宙に浮き地面に背中からたたきつけられる。

その後、背中に鈍い痛みが身体に走り抜けた。

ここまできてようやく佐久間はイノシシに吹き飛ばされたのだと認識することができた。


背中を打ち付けたからか息をうまく吸うことができず、口からはいままで聞いたこともない嗚咽が出てくる。何とか近くにある瓦礫に手をかけ立ち上がり顔を上げる。

顔を上げた先には猪がいた。

腹から血を流し、その流れている箇所には深々と包丁が突き刺さっている。

猪が頭を下げ重心をこちらに向ける。いまからお前に向かって突っ込むぞと全身で語っているように見える。

次の瞬間猪が駆け、こちらに突っ込んでくる。

佐久間は一心不乱に真横に身体を投げ出した。

そのまま猪の重厚な体が佐久間の後ろにある瓦礫を貫く。

その衝撃で瓦礫は音を立てて崩れ始め、佐久間は慌ててその場を這って離れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーー


瓦礫の崩れる音が止み、先ほどまであわただしく感じた空気が静まり返っていた。

目の前にある一頭が崩した瓦礫を掘り返し始める。

小さい砂利のようなものは両手ですくい、大きいものは両手で抱えたり押して転がしてどかす。この動作を何回も繰り返し探す。

いったいどれくらいの時間がかかっただろうか?そう思ってしまうほどの時間をかけてようやく探し物を見つける。


猪である。先ほどまで絶対に敵わないと思わせるほど強かったソレは瓦礫のせいで身動きが取れないでいた。


「これでもまだ生きていられるのか・・・・」


つい感嘆カンタンの声が漏れる。

猪の首に予備の包丁を当て一息に刃を差し込む。

差し込んだ瞬間に猪が鳴き声をあげ、刃を抜いた箇所からは血が流れ始める。

その様子を確認しその場に座りこみ自分の身体をさする。骨は折れてはいないようだが体の節々が痛む。


それでも生きている。


その事実をかみしめ瓦礫に埋もれ血を流し横たわるものを見つめながらなぜ自分がこうなってしまったのかを佐久間は思い出し始めた・・・・・・・・

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る