命の重さ

夜表 計

第1話 重さ

 命は平等だと、誰かが言った。

 命は尊いものだと、誰かが言った。

 命はこの星よりも重いのだと、誰かが言った。


 命は重石だ。

 魂を肉体に縛り付けるための鎖だ。

 それが失くなると、魂はこの地に立つことができず、空へと堕ちていく。

 死んだ後、天に召されるとはよく言ったものだ。

 命は時間と共にすり減っていく。それが寿命だと皆は思っているが、それは違う。

 人は、いや生物は皆、他の命を喰らって生きている。それが自然の摂理だからと言うが、命を奪っていることに変わりはない。

 生きるということは罪と共にある。

 そう、罪なのだ。命を奪う行為は罪であり、その罪が自分の命を削っている。

 少しずつ軽くなっていく命。重石のなくなった魂は重力を無視して舞い上がり、肉体は抜け殻となる。

 命が削られる量は奪った命の重さで決まる。普段の生活では間接的に奪っている為、僅かしか削られない。

 だが、自分の手で奪った場合は違う。奪った命の重さをその身で受けなくてはならない。

 奪った命の重さが自分の命と同等の重さであれば、奪った命に削り切られ、その人も死ぬ。故に殺人は最も重く、忌避されている。

 年に数万の人間が抜け殻の状態で死んでいく。

 ある人は仕事中に、

 ある人は勉強中に、

 ある人は眠っている最中に、

 命が消え、魂が抜けていく。

 彼ら、彼女らは他人の命を奪ったわけではない。ただ運が悪かった、それだけなのだ。

 稀に加害者が奪った命を受け止めきれず、周囲の命を削ってしまうことがある。

 命の重さは人によって異なるのだ。故に命が平等であることは間違いだ。

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