第2話 声

 転校先のはじめての授業を全て終え、私達は放課後に教室に残った。

 始まらない自己紹介に少し不安感を覚えていると、朔来さんが、別のクラスにも友達がいるので是非紹介したいというわけで来るのを待っている。

 だが、10分経っても教室に来ない。


「...けい、珍しく遅いわね」

「まさか補習に引っかかったのか?」

「ケイに限ってそんなことはないよ」

「じゃ先生に呼ばれたのか?」

「あの子が何かやらかすわけないじゃない。...貴方とは違って」

「んだと?!」

「...ま、まぁまぁ落ち着こうよ。彩芽ちゃんが困惑してるし...」

「...そうね」


 20分経った。一向に来ない啓さん。

 しびれを切らしたのか、三來さん達で探しに行くことになった。


「暁月さんはここで待ってて」

「ケイの顔を知らないのに探すのは難しいでしょ?」

「すぐに連れてくる」

「は、はい」


 あと、と言って三來さん達と連絡先を交換した。


「これなら何かあった時に連絡が出来るわ」

「あ、ありがとう」

「行ってくるから待っててねー!!」


 そう言って、三來さん達は教室を出て行った。

 一人、静かになった教室。

 淡いオレンジ色の夕焼けが教室を照らし、花瓶の花もオレンジ色に染まっていく。


『ねぇねぇ知ってる知ってる?』


 何処からか声がする。


『オレンジ色の夕焼けを見ながら願い事をすると願いが叶うらしいよ!!』

「...だ、誰?誰かそこにいるの?」

『さぁさぁ君も願い事を叶えよう!』


 逃げようにも足がくすんで動けない。

 叫ぼうにも恐怖が勝って叫べない。

 誰もいないはずの教室から声だけが響き渡る。

 一体誰?

 誰がこの教室にいるの?


『...ねぇ』


 声がした方をもう一度だけ振り返ると...白い姿をした...私がそこにいた。


『願い事、あるんじゃないの?』


 そう言って段々と近付いてくる。


「い、いや...近付かないで...」

『酷いなぁ...貴方は私なのに...拒絶されたら傷つくじゃない』


 ニコニコしながらまた近づいて来る。

 その笑顔は、普通の笑顔とは違う。

 背筋がヒヤリとするような気持ち悪い汗が流れるような笑顔だった。


「怖い...怖いよ...」


 助けて...三來ちゃん...。

 電話のバイブ音が鳴った。

 震えている手で携帯をひらくと、三來ちゃんからだ。


「もしもし?暁月さん?」

「み、三來ちゃん...」

「あ、暁月さん?...何かあった?」

「た、助けて...!私しかいないはずの教室から声が聞こえてくるの...!」

「...今すぐ行くわ」


 電話を切ろうとした瞬間に携帯を弾かれた。

ハッとして手を見ると、じわじわと冷たくなっていく。


『いけない子だねぇ...私じゃなくて他の子に助けを求めるなんて...』

「い、嫌だ...冷たいよ...寒いよ...」


夏なのにこんなに寒いなんて...。

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