第17話 カーボンとの激闘、そして、、、

「はぁ、はぁ…」


「はぁ…、はぁ…、何か弱点は、見つかった…?」


「ううん、はぁ…、はぁ、まだ見つからない。けど…」



 瑞希は凛華の問いにそう返事を返すと同時に、先ほど見た鑑定の結果から導き出せる可能性を彼女に伝えた。カーボンの魔力は闇魔法を連続で行使をしており、現在も使用し続けている硬化によってどんどんと減少している。



 おそらく彼の魔力が尽きたときに硬化も解除されてしまうだろうということだ。しかし彼の魔力は瑞希と凛華の血液を摂取した際に回復をしているのも確認をできたので、攻撃を迂闊に喰らってはいけないということも伝えた。



「あとどれくらいで尽きそう?」


「多分もって後10分だと思う」


「なるほどね。それぐらいならなんとかなるかな」



 凛華はそう言うと、息を整えてカーボンと対峙した。瑞希も覚悟を決めると、大剣を取り出してカーボンにその切っ先を向けた。



(今までは速度に対応するためにこの剣を振るう余裕はなかった。けど、制限時間が決まっているなら…!)



「凛ちゃん…」


「何、瑞希?」


「今から私も全力でいくから凛ちゃんは援護をお願い」


「! …わかった。それじゃあ、よろしく。思う存分やっちゃって!」


「うん!」




 凛華も瑞希のやろうとしていることを理解すると、その背中を後押しした。



「それじゃあ行くよ、〈刀剣解放〉!」



 スキルの発動と同時に瑞希の剣は光と共に刀へと姿を変え、凛華は気力を十分に刀へ乗せて振り切った。すると、気力による斬撃が飛び、カーボンへと襲い掛かった。



「フッ…!」



 カーボンはその斬撃を腕を交差して受け止めたが、その表面には斬撃の跡が残った。



「コレホドトハ…!」



 カーボンは彼女が今まで後衛に控えて魔法による援護を中心としていたので、ここまでの威力を持った武器による攻撃を仕掛けて来るとは思っていなかったので驚いていた。



 そして、そこから瑞希による刀と、カーボンによる硬質化した拳による殴り合いが始まった。攻撃の重さという点では瑞希が不利だが、攻撃の速さでは刀の重さをまるで感じない瑞希の方が速く、ほぼ互角の殴り合いをしていた。



「はぁっ…!」


「フッ、ハァッ…!」


「くぅぅぅ…、負けるか~!」



 瑞希は拳に押し負けそうになっても、気力を振り絞ってその拳を打ち払った。



「私も忘れないでよね! ライトアロー!」



 凛華は子の打ち合いに邪魔をしないようにと、後衛に下がってからは光の矢を要所要所で飛ばすことで、カーボンの動きを阻害したり、的確に目を射貫こうとしたりして、瑞希の援護をしていた。



 それからおよそ、10分が経つとカーボンの体からは蒸気のようなものが出て、少しずつだがその体を覆っていたものが消え始めていた。



「ホホホ、ココマデデスカ…。オ嬢サン、最期ニ私ノ頼ミヲ聞イテイタダケマスカナ…?」


「はぁ…、はぁ…、何ですか…?」



 瑞希は乱れた呼吸を整えようとしながらも、警戒を解くことなくカーボンの要求が何なのか聞き出そうとした。



「ナニ、死ニ往ク老人ノ頼ミデス…。最後ノ真剣勝負ニオ付キ合イ願イタイノデス」



 カーボンはそう言うと、再びナイフを取り出して瑞希に向けて構えた。瑞希はこれが最後の一太刀になるだろうと思い、頷き、刀を構えた。


「アリガトウゴザイマス」



 カーボンはそう礼を言うと、体に残っていた黒い光沢の全てを右手に凝縮させ、腕とナイフを覆い、そのナイフと体を一体化させた。



(私には凛ちゃんみたいな刀の技はない、けど、この刀に込めた想いを具現化することはできる…!)



 瑞希は刀に意識を集中させ、残る魔力と気力をその刃に込めた。すると、瑞希の刀は妖しい光を帯び始めた。



「デハ、参ル!」



 カーボンの掛け声と同時に2人は駆け出した。



 キーーーンッ



 2人の位置は斬り合いが終わったかと思うと入れ替わっていた。そして、




「オ見事デス…」


「貴方も…」



 2人は同時に膝をつき、そのまま倒れた。



「瑞希!」



 凛華は2人の動きを目で追っていたものの、打ち合う瞬間は離れていたので良く見えておらず、瑞希がやられたのではないかと慌てて駆け寄ったのだ。



「ホホホ…、大丈夫デス…。オソラク彼女ノ魔力ト気力ガ限界マデナクナッタダケデショウ…。コノ勝負ハ御嬢サンノ勝チデシタ…」



 カーボンにそう指摘をされて凛華は瑞希の様態を確認してみると、彼女の胸はゆっくりとだが確かに上下しており、意識を失っているだけだった。



「良イ勝負デシタ…。貴女タチナラ旦那様ト奥様ヲア奴カラ解放スルコトモ…」



 カーボンは最期にそう言い残すとその姿を消滅させて、魔石とナイフを残して消えていった。


「あ奴…?」


 凛華はカーボンが最期に気になることを言い残して消えていったので、何かがこのダンジョンでは起こっているのではないかと思ったが、意識を失っている瑞希の方が優先なので館の中に入るのは危ないかもしれないので、その場で上着を脱いで瑞希にかけ、彼女の意識が戻るのをのんびりと待っていた。



 それから何時間が経っただろうか、ダンジョン内ではスマホには電波が届かないため時間の確認ができなかった。凛華も疲労からウトウトしていたので、戦闘を始めたのは5月17日金曜日の夜だったのは確認済みである。



「瑞希は……、まだ寝てるか」


 凛華は瑞希の様子を確認するが、まだ彼女は眠ったままだった。ダンジョンから出るか、瑞希の〈個人空間〉に入らなければ時間の確認はできないので、とりあえずこのまま瑞希が起きるのを待った。



 それから30分程して瑞希は目を覚ました。



「あれ…、ここは…」


「目が覚めた?」


「…凛ちゃん…?」


「状況を思い出せない?」


「えっと…」



 瑞希は目を覚ましたばかりで何があったか覚えていないようだったが、凛華から記憶をたどるように言われて思い返してみると、黒いスケルトン———カーボンと戦っていたことを思い出した。


「……! 決着は…!? あのカーボンっていうスケルトンは!?」


「はい、落ち着いて」



 凛華は瑞希を落ち着けるために頭に軽くチョップすると、瑞希が気を失ってからのことを伝えた。そして、それを聞いて、自分の攻撃がとどめになったと聞いたときは驚いたが、カーボンの望む死を与えられたことはよかったのではないかと瑞希は感じていた。


(それに状態が隷属ってあったし、凛ちゃんも『あ奴』って言われているような相手がいることを聞いているみたいだし、この館の主人以外に何かいるんだろうな)



 瑞希は話を聞いて上でそう推測を立てると、凛華にその可能性を伝えた。そして、それを聞いた凛華は、他者を隷属化させるような強力なスキルは報告されていないことからかなり強い相手がこのダンジョンにいて、あのカーボンより強いことは確かだと言った。



「そうじゃなきゃ隷属されるなんて考えられないからね」


「うん、確かにそうだね」


「私たちも、もしかしたら隷属させられてしまうかもしれないし、十分に気をつけよう」


「わかった」



 2人でそのように話し合うを終えると、館の中に進むのではなく、一度しっかり休んだ方がいいと思い、ダンジョンから出て家族に連絡を入れてから門まで戻り、〈個人空間〉を利用して魔力と気力、そして疲労を十分に回復させてから館の中へと入っていった。



「お邪魔しま~す」


「り、凛ちゃん、そんな堂々と入らなくても…」


「どうせ入ったら気づかれるだろうし、それなら開き直って真正面から行った方がカッコいいでしょ」


「そんな理由で…」



 凛華が勢い良く扉を開けて中に進むと、玄関は広く正面には大階段があり、奥に扉が1つあった。また、左右にも通路は伸びているようで等間隔でいくつかの部屋があった。


 2人はとりあえず探索を進めようと扉を片っ端から開けようと試みるが開く扉は1つもなかった。


「これはあの階段を上って進めってことなのかな?」


「そうじゃないかな…。ここまで扉が閉まりきっているのを考えるとさすがに違和感があるし…。でも、多分あの扉の先って…」


「まぁボスがいるだろうね。それがどっちかはわからないけど。でも、それなら話が早くてよくない? だって、どちらにせよ扉の先にいる相手を倒せばきっとこのダンジョンはクリアなんだからさ」



 凛華は扉の先にいるのはおそらくカーボンの主人に当たる人物がいると睨んでいた。そして、それを隷属させているのが一緒にいるか、扉の先の先にいるのかはわからないが、他に行く場所がないならどちらにせよ進むしかないと考えていた。




「何の用だ。ここは私たちの家だ。用がないのなら立ち去るがいい」



 凛華が大階段の先にある扉を開けると、流暢にしゃべる豪勢な服を着た赤黒いスケルトンが2体いた。男性のような声で話かけてきた方は、手に本を持っていたが、瑞希と凛華の登場でその本を閉じ、部屋の隅から黒い刀身の剣を引き寄せていた。



 もう一方のスケルトンは何も言葉を発することはないが、手には扇子を持っており口元を覆っていたり、ドレスのようなスカートの装備をしていたりすることから女性のスケルトンであることも推測ができ、2人はこのスケルトン2人がこの館に住む夫婦なのだと理解した。



「私たちの用事はこのダンジョンの館を攻略することかな。2人と戦わずに攻略することってできるのかな?」


「無理だな。私たちは…、うぐっ…! ちっ…! まったく忌々しい呪いだ。詳しいことはどうやら話すことはできないが、この館の宝が欲しいということなら私たち2人を倒すことが必要だな」


「そっか~、会話ができているからできれば倒したくなかったけど、結局そうなるよね~」



 凛華は男性のスケルトンとのんきに会話を繰り広げるが、瑞希はスケルトン夫婦がいつ襲いかかってるかわからないうえに、やはり彼らにも隷属の状態異常がかかっていることは鑑定で確認ができているので、使役している者がどこかに潜んでいるかもしれないと考えると、気が抜けずにいた。



「瑞希」



 凛華は周囲の警戒をしている瑞希に声をかけた。そして、


「あっちの剣を持った男のスケルトンは私が引き受ける。だから瑞希はあっちの扇子を持った夫人をお願い」


「任せて大丈夫なの?」


「多分ね。それに、2対2だと私たちの方が不利な可能性が高いし、できれば2人を違う部屋に誘導して離れさせたいかな」



「わかった。それなら、私が外に誘い出そうか?」


「ううん、瑞希はできれば屋内でお願い。私とあの男の勝負だと広い屋外の方が戦いやすいと思う。ここは剣や刀を振るうには狭すぎるし、障害物が多すぎる」


「それは私も同じなんだけど…」


「まぁ細かいことは気にしないでさ、ね? 瑞希は体術も使えるわけだし、あのカーボンのナイフもあるから体術が通用しなくてもそっちで戦えばいいと思うし」




 凛華はそう言うと、カーボンからドロップしたナイフを瑞希に手渡した。瑞希はナイフを扱うためのスキルとして〈剣術〉スキルはあるが、刀とナイフを使い続けて行った先にどんな進化先が出てしまうのかと思ったが、手段を選んでいられないかもしれないと思いそのナイフを受け取った。



「それじゃ、行くよ、瑞希!」


「うん!」



 凛華は瑞希にそう声をかけると、大剣を掲げたスケルトンに肉薄し刀で斬りかかり、瑞希は返事と共にもう1体の黒いスケルトンへと剣を向けた。




※以下は2体のスケルトンのステータス


——————————

種族:ブラッドスケルトン・ナイト

個体名:アラン

状態:隷属


Lv.25


Rank.1


体力 150

魔力 100

気力 168

物理攻撃力 151

物理防御力 145

魔法攻撃力 121

魔法防御力 151

器用さ 130

素早さ 155

運 60


〈スキル〉

〈ブラッドウェポン〉Lv.3 〈大剣〉Lv.5 〈血液操作〉Lv.5 〈火魔法〉Lv.4 〈闇魔法〉Lv.3 〈頑健〉Lv.3 〈気力操作〉Lv.4



——————————



——————————

種族:ブラッドスケルトン・ウィッチ

個体名:イリア

状態:隷属


Lv.23


Rank.1


体力 130

魔力 170

気力 99

物理攻撃力 101

物理防御力 120

魔法攻撃力 171

魔法防御力 161

器用さ 140

素早さ 115

運 60


〈スキル〉

〈ブラッドウェポン〉Lv.3 〈扇〉Lv.5 〈血液操作〉Lv.5 〈火魔法〉Lv.4 〈水魔法〉Lv.4 〈土魔法〉Lv.4 〈風魔法〉Lv.4 〈闇魔法〉Lv.5 〈魔眼〉Lv.3 〈魔力操作〉Lv.4



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