第11話 思っていたよりも話が広がっているんだけど…
瑞希と凛華が帰宅をして仮眠をとること数時間、いつも通りの時間になると2人は眠そうにしながらも待ち合わせをして高校へと向かった。
「おはよう、瑞希」
「おはよう、凛ちゃん。大丈夫だった?」
「うん、それにあの刀もお爺ちゃんが私にくれるって」
「そっか、怒られなくてよかったね」
「本当にそうだよ…」
凛華は祖父から借り受けた刀を自身のダンジョン用の武器へと変化をさせてしまったことを伝え、怒られることを危惧していたが、その刀が友人を助けることになったのなら今回は不問にすると言い、この刀に見合う主になることを条件に所有権を移譲してもらったのだ。
2人はここ数日の授業を休んでしまっているので、高校へ着くとまず初めに職員室へと向かい先生たちからどこまで授業を進めたのか、配布物や課題はなかったのか確認をしてから教室へと入った。
職員室に入ったときは担任の先生や、その話を近くで聞いていた先生たちからダンジョン事故に巻き込まれたと聞いて心配をした、ここにいるってことはもう大丈夫なのか、と多くの心配の声をかけられた。
そのたびに瑞希と凛華で大丈夫だと答えて授業についての質問をしていたので朝のホームルームまでの時間ギリギリまで時間を要してしまった。
また、教室では耳の早い人たちからやはり突発型ダンジョンに巻き込まれていたことを聞かれ、いつもは話さないような男子からも声をかけられて瑞希は困惑する羽目になったがなんとか放課後を迎えられた。
「瑞希、帰ろう?」
「うん。ちょっと待ってね」
午前中の授業を終えて帰る用意をしていると、正門の方が騒がしかった。瑞希と凛華は部活動で何かしているのだろうと思っていたのだが、昇降口の方まで行くとそうではないということを知った。
「ねえ、正門のところに記者がいっぱい来ているんだけど何かあったのかな?」
「さぁ?」
「あ、わかった! ダンジョンについてじゃない? 朝から隣のクラスの男子もうるさかったしさ」
「おい、記者がダンジョンを攻略した2人組の女子高生を知らないかって聞いているみたいだぞ」
正門の方でどういう状況になっているか野次馬のように見に行き、情報を得て周りに話している人たちの声が聞こえてくると、瑞希と凛華は自分たちを探しに来た人たちだと気がついた。
「どこから情報が漏れたんだろう…」
「そういえば朝から違和感があったけど忙しくて気が付かなかったよ。あの親父…!」
凛華は自身のスマホで何かを検索していたのか地方のニュース記事を見せてきた。
「これ、私たちのことを書いているみたい」
「どういうこと?」
瑞希は凛華からスマホを受け取ると、そこに記されていた記事を読んだ。
『突発型ダンジョン攻略!? 攻略者は巻き込まれた2人組の女子高生!』
そう言った見出しから始まり、巻き込まれた日付、昨夜攻略をして脱出をしたこと、ダンジョン内でモンスターと戦っていたこと、それらが大雑把に記されており、彼女たちは委員会の所属ではないフリーの探索者だと最後にまとめられていた。
「何これ…。そもそも探索者でもないのに、どうしてこんな書かれ方…」
瑞希はダンジョンに潜るのは緊急の用事でもない限りは避けようと思っていたにもかかわらず、これでは委員会に所属をするつもりがないモグリの探索者をするように書かれているように思えたのだ。
世界中を見渡してみれば確かに資格を持たずにダンジョンに潜る人たちはいる。そんな彼らは潜りといわれたり、盗掘者と呼ばれていたりして表では売買がほとんどされていない。しかし、彼らが取ってくる有用なものを裏に流されては困るということで秘密裏に取引はされるがそれは公然の秘密というところでもあった。
そうした売買では基本的に書いて有利な状況が多く、ギリギリまで値を上げて取引が行われるからあまりいい印象を持たれていなかった。さらに、彼らは無所属ということになっているので委員会からの要求にこたえる義務もなく好き放題できるということで、誰も手綱を握れていない状況なのだ。
そのうえで実力もあるから手に負えないということで世間的にはあまりいい印象を持たれないのがフリーの探索者だった。
「それがあの親父の狙いなんでしょ」
凛華はこれを仕組んだのが十中八九、久喜という支部長であると睨んでいた。証拠はないが、記事に書かれている内容は警察と委員会支部で話したことを基にしか書かれておらず、凛華の付いた嘘を基に内容が書かれていた。
「これで私たちが世間で叩かれれば委員会に所属せざるを得ないし、何かあったときに戦わずにいれば周囲から非難される。どっちにしろ無理矢理に舞台に挙げられたって感じかな」
凛華はイライラとしたような口調で言った。瑞希もそれを聞いて久喜の仕業であることが分かり、そこまでして委員会に所属をさせたり、ダンジョンに挑ませて来ようとしたりして何がしたいのかと思った。
(それでも私たちの邪魔をしたことは許せないけど)
瑞希も凛華と気持ちは同じだったが、一先ずこの状況をどうにかしないといけないので先生に事態の収拾を図ってもらうために職員室へと向かった。
「失礼します」
瑞希と凛華が職員室へと向かうと、やはり表の騒ぎのせいで職員室も忙しそうにしていた。
「ああ、武藤さん黛さんちょうど良かった」
「表の記者たちですね?」
「ああ、そうなんだよ。君たちも何か聞いているかい?」
「そのことなんでうすが、どうやら委員会にいい印象を持たなかった私たちと喧嘩別れをした支部から嫌がらせとして昨日した報告のことを新聞社に売って記事にされていたみたいなんです」
「どういうことだ?」
先生たちにも昨日あったことを話した。ダンジョンを攻略して警察に保護され、そこでダンジョンのことを話したこと。その後、態度の悪い女性に連れられて、ダンジョン委員会久喜支部の久喜という支部長と会い話をしたこと。その時の久喜は父親たちがいないと思っていた時は舐めた態度を取ってきたこと、どうしても委員会に所属させようと画策しようとしていたこと、等々、細かいところまで話してどうしてこうなったかという推測を伝えた。
「…なるほどね。その久喜という支部長のせいだろうという推測まではよくわかったよ。それで、この状況をどうするかという案はあるのかな? 一応他の先生たちが表に出て生徒に手を出さないように言って注意をしているし、今は近くの交番から警察も抑えてくれているみたいだけど、どこまで通じるかわからないよ」
「そうですね…」
瑞希と凛華はこうした手段に出て来るとは予想をしていなかったので、どうするかと悩んだがしばらく外出を控えるか、最終手段に訴えた方が速いのではないかと思った。
「両親と相談をしますけど、しばらく休学にしてもらえませんか? この騒動がすぐに収まるとは思えないですし、今日が土曜だからまだいいですけど、平日もこの調子だと他の人にも迷惑がありますし、しばらく身を潜めていようかと」
「なるほど。それなら、家に帰ってご両親と相談をしたら学校に連絡をしなさい。休学をするのであれば書類を用意しておくから、後でご両親から印鑑さえもらえればいい状態にしておくよ」
先生はそう言うと、手の空いている他の先生に裏門の鍵を開けてもらえないかと相談をしてくれた。
「開けてもらえるみたいだから裏門から家に帰りなさい」
「「ありがとうございます」」
「どういたしまして。気を付けてね、何かあれば私たちを頼っていいんだから」
先生に別れを告げると瑞希と凛華は裏門から急いで自宅へと帰った。自宅の近くは彼女たちも予想をしていたが、高校に控えていた記者とは異なる記者の人たちもうろついていた。
「どうする?」
「う~ん、あ、これとか使えないかな…?」
瑞希が思いついたのはダンジョンで手に入れた隠者のローブとスキルを使用することだった。そもそも街中でスキルを使うことは許可を得ないといけないのだが、バレなければ問題がないと思えば隠者のローブで気配を薄くできる上に、凛華は隠密で音を消すことができる。もしもの時は気配を偽造すれば誤魔化せるので、この状況を脱せるのではないかと思ったのだ。
「これでなんとかできるかもしれないけど、瑞希はどうするの? これで私だけ帰っても意味ないと思うけど」
「うん、確かにそうだね。だからお母さんには申し訳ないけど電話で状況を伝えるし、後で印鑑を高校に行って押してもらっておくつもりだよ」
「その後は?」
凛華がそう聞くと、瑞希は自分の気持ちを整理して何が最も効果的な対処方法なのか思いついた自分の考えを伝えた。
「ねえ、凛ちゃん、あのとき言ったことは本当だよね?」
「あのとき?」
「うん。もしもの時は2人でどっか行っちゃおうって話」
「え、うん、そうだけど…、まさか?」
「うん、そのまさかだよ」
「そっか~、本当にそうするか~…」
凛華は瑞希の言おうとしている考えが何であるかを察すると天を仰いだ。あの時は最悪の場合はそうすればいいとは思ったけれど、瑞希はそれを最初の案に持ってきたのかと思ったのだ。
「凛ちゃんがついてきてくれるならなんとかなると思うの、だからお願い」
「うん、わかったよ。瑞希がそう言うならついて行くよ」
「ありがとう! じゃあ、私の考えを伝えるね」
瑞希はこの状況を脱するために思いついた案を凛華に話し始めた。
「…なるほど、それなら確かになんとかなるかもね」
「うん、私が視た限りだとたぶんいけるはずだから」
瑞希は自分の考えを伝え終えると、凛華もそれなら確かになんとかなるかもしれないと思い瑞希の案に賛同した。
「それじゃあ、やりますか!」
凛華はそう宣言すると、瑞希も「おー!」って言って手を上げた。
ちなみに、2人の行動は隠密と隠者のローブで気づかれることはなったが、道の往来でやっているので気づかれたら注目を浴びて恥ずかしくなっていたことだろう。2人はそんなことに気が付くこともなく、凛華の家にこっそりと入るのだった。
「ただいま」
「お邪魔します」
2人が凛華の家に帰ると、祖父と母親が出迎えてくれた。
「お帰り、いらっしゃい瑞希ちゃん」
「おかえりなさい、大丈夫だった!?」
2人の様子は対照的で彼女の祖父は落ち着いていつも通りの口調だったのに対し、母親は表の騒ぎを聞いて何かなかったかと不安そうにしていたのだ。
「うん大丈夫。私のスキルと瑞希の装備でなんとかなったよ」
「そう…、それならよかったわ」
凛華の母親はそれを聞いて一安心すると瑞希に向き直り、瑞希の母親も心配をしていたから早く帰って伝えてあげてと教えてくれた。
「ありがとうございます。ですが、その、多分しばらく帰らないと思います」
「え…」
瑞希の言葉に凛華の母親は驚き、祖父も眉をピクっと動かした。不穏な空気を察した凛華は瑞希と考えている案を2人に話した。
「そう…、そうなのね」
「事情は相分かった。して、どうするつもりだ。儂らも何か協力をした方がいいことはあるか?」
「できれば、これから言うものを買って来てくれると助かるかな。当面はそれでしのげると思うからさ」
「わかった。それで、その久喜という男には何もしなくていいのか?」
彼女の祖父は道場を務めていた時代の友人に声をかければ、久喜程度の立場の男であればどうにかできると言っていた。凛華はそれも思いついた案の1つではあったが、今回の権威祖父は関与していないので自分の力でなんとかしたいということで最低限の協力だけでいいと思っているのだ。
「うん、大丈夫。私たちを舐めたらこうなるんだって思い知らせないとね」
「うむ。わかった。だが、連絡はこまめにしてくれ」
「わかった、ありがとうお爺ちゃん!」
凛華はそう言って祖父に抱き着き感謝を示した。瑞希もお礼を言うと同時に話が思ったよりも大きくなっていることに驚いたが、自分の案を信じてくれた凛華の家族にも感謝と同時に申し訳なくも感じていた。
「あの、凛ちゃんにここまで頼りきりですいません…」
「いいのよ、瑞希ちゃんのおかげでうちの子も助かっているところもあるんだし、お互い様よ」
彼女の母親はそう言って買い物カバンを掲げて凛華の言ったものを買いに行ってくれた。
瑞希は買い物が終わって帰ってくるまでに家に連絡をしてこれからとる行動を伝えて、毎日1度は連絡をすると約束をしてから電話を終えた。
そして、細かい打ち合わせを凛華としていると、買い物を終えて帰ってきたようで頼んだものを受け取った。
「それじゃあしばらく行ってくるね」
「気を付けてね、あとのことは私たちにも任せてちょうだい。高校の先生にも連絡をこちらからも入れておくわ」
「何から何までありがとうございます」
「いいのよ、久喜なんてくだらない男にあなたたちの本気を知らしめてちょうだい!」
凛華の母親はそう元気よく見送ってくれて、彼女の祖父も静かに見送ってくれた。
「「行ってきます」」
瑞希と凛華は声を合わせてそう言うと、世闇に紛れて目的地に向かって移動を開始した。
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