第88話『ざいはらぎょうへい』 

やくもあやかし物語・88


『ざいはらぎょうへい』    






 東海と書いたら、頭に来るのはJR。お尻に来たら大学。


 東風と書いたら、匂いおこせよ梅の花と続く。


 晩ご飯の時に、お爺ちゃんに聞いた答え。




 じゃ『東窓』は?




 聞いてみたかったけど、グッと堪える。


 高安で『東窓』って書かれた紙を貼り付けたら、沙也加って引きこもりの女の子が子ネコのように家を飛び出した。


 つまり、何年も続いた引きこもりをいっぺんに治してしまった。




 あれってなんだったんだろうね……




 ひとりごとを言うと、ポケットからチカコが顔を出す。


「いろいろ聞いてみるといいわよ」


「チカコは知ってるの?」


 チカコは、高安ではポケットに入ったままで顔も出さなかった。


 まあ、気まぐれな子だと(あやかしって、たいがい気まぐれなんだけどね)思っていたから追及はしない。




 ネットで検索する。




 東窓……東に窓を付けると、日の出と同時にお日様が差し込んで、健康で自然な目覚めになるので、建売住宅などは、最初から東に窓を付けている者が多い。


 東の窓は、運気上昇の基本……とか。


 東の窓には深いグリーンのカーテンが最適……だとか。




 東窓と引きこもりの因果関係を書いているのは見当たらない。




『見よ東海の空明けて~旭日高く輝けば~(^^♪』


 黒電話から歌が聞こえてくる。


 交換手さんが歌っている。


「なに、その歌?」


『あ、東海とか東風とか言ってたから、つい口ずさんでしまった(^_^;)』


「なんの歌?」


『あ、愛国行進曲。あ、つい、歌っちゃっただけだから、忘れて、忘れて!』


 声だけでも分かるくらい照れて切れてしまった。


 

 お風呂から上がると、お爺ちゃんとお婆ちゃん、それにいま帰ってきたばかりのお母さんも混じってテレビの野球中継を観ている。


「大谷翔平?」


 ぼんやり聞いてみると、三人揃って首を横に振る。


 画面に気を取られてるから、無意識というかおざなりなんだけど、それでも反応してくれるのは嬉しい。


 こういうのを、大げさに言うと『家族の呼吸』なんだろうね。


「巨人阪神戦よ(;^_^A」


 お婆ちゃんが、チラリとわたしを見て言ってくれる。


「え、日本?」


 観客がいっぱい入って歓声を上げてるもんだから、てっきりアメリカだと思っていた。


「観客入ってるんだ……」


「そりゃ、巨人阪神戦だもの」


 お婆ちゃんは少女のようだ。


 ウワアアアアア!


 巨人に得点が入って、親子三人が歓声をあげる。




 コロナの真っ最中に観客入れてる!?



 いまは、なんでも自粛の世の中だから、野球場に観客が入っているなんて思わなかった。


 コロナで観客を入れるなんて、イギリスとかアメリカがやることだと思ってた。


 巨人阪神戦に観客入れるんだったら……なんで、オリンピックは無観客なんだよ?


 素朴な疑問が湧いてきたけど、これは聞かない方がいいと思って部屋に帰る。




 机の上ではチカコがリラックスして紅茶を飲んでいる。




「これ、ヒントよ」




 そう言って、メモ帳を指さす。


「え?」


 メモ帳には、四文字熟語が書いてある。




 在原業平




 ざい……ざいはら……ぎょうへい?




 なんだこりゃ?




 不思議に思っていると、チカコはプイっと膨れて消えてしまった(;'∀')。


 


☆ 主な登場人物


やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生

お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子

お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

教頭先生

小出先生      図書部の先生

杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き

小桜さん       図書委員仲間

あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸


 




 

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