第64話『光ケーブル』


やくもあやかし物語・64


『光ケーブル』    






 お爺ちゃんは、よく動画で昔の景色を見ている。




 リビングの大きいテレビだから、わたしもお茶を飲んだりしながら見るともなく見ている。


「あら、昭和五十年ごろですね」


 東京の昔を映していた画面を見てお婆ちゃんが言う。


「いいや、十五年ほど前の神田だよ」


「え、だって、古本屋さんとか喫茶店とかまんまですよ」


「だから、そういう神田の昔が残ってるところを撮ってるんだよ」


「そうなんですか?」


 わたしも、立て込んだ街並みや、こんぐらがりそうなくらいに掛け渡された電線とかから、お婆ちゃんが正しいと思ってしまった。


「ほら、ここを見たら分かるよ」


「「ええ?」」


 お婆ちゃんと二人、4Kの画面に張り付く。


「だから、この電線の込み具合は昭和ですよ」


「よく見ろよ、光ケーブルが走ってるだろうが」


「「光ケーブルぅ?」」




 解説してもらって、やっと分かった。




 電線、正しくは電線と電話線とかがあるらしいんだけど、よく分からない。


 電話線に並んで、グルグルとぐろを巻くような線が掛かっていて、そのグルグルに巻き取られるようにして黒いケーブルたちが走っていて、それが光ケーブルなんだそうだ。


「ほら、ときどき、こんな工事やってるだろ」


 慣れた手つきで動画を切り替える。


 あ、ペコリお化け……。


 交通誘導員のおじさんが誘導灯を振りながら頭を下げていて、その向こうにカーゴ付きのクレーン車。カーゴの中にはヘルメット被ったオジサンが、グルグルの中にケーブルを通していて、新しく光ケーブルを増設しているんだと分かる。


「ああ、これって、光ケーブルの工事してたんですか」


 お婆ちゃんが感心。


「そうだよ、この光ケーブルの有る無しで時代が分かる。昭和には無かったからな」


「そうなんだ」


「便利なネットだけど、こういうアナログな仕事があってなりたってるんだなあ」


 得意そうにお爺ちゃんが締めくくり、ババと孫が頷いて、平和な小泉家のひと時が過ぎていく。




 お爺ちゃんの大叔母にあたる人が、樺太の真岡という街で電話の交換手やっていた。その繋がりなのか、わたしの部屋に古い黒電話があって、交換手さんが住み着いていて、ときどき変な電話を取り次いでくれる。


 食後のひと時、光ケーブルに祖父母と孫が感心したのは、そういうお爺ちゃんの大叔母さんと関りがあるかも。




 図書当番で遅くなって、茜に染まる二丁目の坂下を歩いている。


 ふと、通学カバンが暖かくなっていることに気付く。


 えと……


 そうだ、中に勾玉を入れていたのを思い出して取り出してみる。


 あったかーい(^▽^)


 両手で愛しんでいると、いつもは目を向けない坂下の道路わきの電柱に目がいく。


「あ、光ケーブル」


 お爺ちゃんに教えてもらったので、すぐにとぐろの中を走っているケーブルの束に目が行く。


 ゾワ ゾワゾワ ゾワワワ


「え!?」


 ケーブルたちが、命があるようにゾワメキだした。


 瞬間で、あやかしだと思った。


 もし、勾玉が無かったら、臆病なわたしは、一目散に坂を駆け上がって逃げただろう。


 でも、これはお地蔵さんの勾玉なんだ。


 あれは、きっと悪いあやかし!


 ギュっと勾玉を握りしめ、握った拳を春闘の労働者のように突き上げた。


 ボタボタボタ


 まるで、黒い寄生虫のようなものが何匹もとぐろの中から落ちてきた。


 ヒャ!


 さすがに飛びのくと、日向に出てきたミミズのようにのたくって、ジュウウウと煙みたいなものをあげて消えていった。


 かすかに断末魔のピーピーいう悲鳴を聞いたような気がしたんだけど、さすがに気味悪くなって走って帰ったよ。


 帰ってから、勾玉にひもを通して首から下げられるようにした。


 カバンの中だと、忘れてしまうと心配になったから。


 当分、勾玉は肌身離さず持っていることにしよう。




 


☆ 主な登場人物

•やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生

•お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子

•お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

•お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

•小出先生      図書部の先生

•杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き

•小桜さん       図書委員仲間

•あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石


 


 

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