第65話『二丁目の土の道』
やくもあやかし物語・65
『二丁目の土の道』
コンビニは一丁目の端と二丁目の真ん中にある。
二丁目のは学校と家の間なんで、学校への行き帰りにかならず目にする。
だけども、利用率の高いのは一丁目のコンビニ。
だってさ、制服のまんまコンビニに入るのは気が進まない。
近所の中学校だって丸わかりでしょ。近所の人だったらネクタイの色で学年まで分かってしまうし、ボーっとしてるわたしは名札を仕舞っておくのを忘れたり(校外ではポケットの表に付けた名札はポケットに仕舞うように言われてるんだけど、よく忘れて歩いている)するからね。
そのわたしが、わざわざ一丁目のコンビニを目指している。
それも自転車に乗ってさ!
二丁目から学校の方に掛けて自転車の乗るのは億劫なんだ。
だって、坂道があるでしょ。
下りはいいのよ、下りは漕がなくてもいいしね。でも、帰りは坂道を漕いで上がらなくちゃいけないからね。
それを、いったん家に帰って、それもわざわざ自転車で出かけたのには、こんな事情があるんだよ。
「崖下の一つ西の道、土の道になっちゃったよ、年度末事業みたいだ」
お爺ちゃんが言った。
自治会の用事で二丁目に出かけたら、百メートルくらいの舗装が剝がされて土の道が露出してるって言うのよ。年度末に使い残した予算を使うために、お役所が舗装のやり直しを始めたらしいんだけど、舗装を剥がしたところで、一時的にストップしているらしい。
「いやあ、昔は、ここいら舗装道路なんて無かったから、土の感触が懐かしくってさ、コンビニに寄って来るの忘れてしまった」
お爺ちゃんは胡桃の食パンが好きで、胡桃の食パンは二丁目のコンビニしか売ってない。
「あたし、行ってくる!」
それで、自転車をかっ飛ばしているというわけ。
お爺ちゃんの役に立ちたいという気持ちも無くはないんだけど、ビビっときたのは百メートルの土の道。
土の道を自転車で走ってみたいわけです!
たまにね、下水工事なんかで土が露出してることってあるけどさ、ほんの何メートルかでしょ。
百メートルもの土の道って、そうそうあるもんじゃない。
だから、コンビニで胡桃の食パン買った後、わざわざ回り道してみたわけですよ。
ワシャワシャ シャリシャリシャリ
陽気な土やら砂の感触を楽しんでいると、あっという間の百メートル。
そのまま舗装道路に進んで回り込めば崖下の道に出るんだけど、もう一回走ってみたくって回れ右。
三十メートルも走っただろうか、急に自転車のペダルが重くなってきた。
え、土の道だから? さっきは普通だったのに?
置いてけ……置いてけ……
変な声がしたかと思うと、完全に自転車が停まってしまった!
恐るおそる振り返ると、いま通った三十メートルあまりに黒い影が三つ浮かび上がっている。
黒い影は、地面から湧き出た煙みたいなものが人の形になった感じで、足の先が地面と同化している。
何を置いてけか、最初は分からなかったけど、影の視線が自転車の前カゴに突き刺さっている感じで、胡桃の食パンを狙っているんだと分かる。
「ダ、ダメよ、これはお爺ちゃんのなんだから」
影たちは、聞こえないと言うよりは無視して、置いてけを繰り返す。
どうしようと思っているうちに、置いてけは後ろの方からも聞こえだして、前後を固められてしまう。
や、やばいよこれは……(;゚Д゚)
お地蔵さんの勾玉を思い出す……制服のポケットの中だ。で、今は私服だ……。
ジワジワと黒い影は前後から迫って来る。
もうお終い!
そう絶望しかけた時に、勾玉は紐を付けて首からぶら下げていることを思いだす。
――おねがい、勾玉!――
そう思って、フリースの上から勾玉を掴む。
ギュウウウウ……
すると、胸の所が暖かくなってきたかと思うと、勾玉はラピュタの飛行石みたいに光り出し、前後の黒い影たちは『ヒョオオオオ』と悲鳴なのか歓声なのか分からない声をあげたかと思うと、わたしの近くの奴から消滅し始め、離れている影たちは、地面に潜って消えて行った。
勾玉のお蔭だし、わたしもあやかし慣れしたのか、家に帰るころは平気になっていて、無事にお使いを果たすことができた。
どうも、お地蔵さんが依頼してきた妖退治は一度や二度ではお仕舞になりそうにない。
今年の春は、まだやっと梅が綻び始めたばかりです。
☆ 主な登場人物
•やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
•お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
•お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
•お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
•小出先生 図書部の先生
•杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
•小桜さん 図書委員仲間
•あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石
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