第53話『桜の季節・1』


やくもあやかし物語・53


『桜の季節・1』     






『そろそろ桜が咲きますよ』




 交換手さんが電話で教えてくれた。


 わたしはうかつな子なので、咲きはじめの桜と言うのは、あまり記憶にない。


 気づいたら四分咲きくらい、どうかすると満開なのが散り始めてから気づいたりする。


 そういうことを見越して交換手さんは知らせてくれたのかもしれない。


 ボーっとしてるってことでもあるんだろうけど、なんで桜が咲くのに気付かないんだろう。




 そんなことを意識しながら通学路を歩く。




 そして、気が付いた。


 桜を意識して歩いていると、いろんなことに気づく。


 あの家は三階建てだったんだとか、素敵な出窓があるとか、坂道から崖下の道に曲がる時、空がスカーっと広くなることとか。


 もう半年余り通っているのに初めて気が付いたよ。


 俯くと言うほどではないけど、視線を低くして歩く癖があるんだなあ。だから、家が三階建てなのにも、曲がり角で空が広がって見えるのにも気づかなかったんだ。


 うん、もうちょっと視線を上げて歩こう。


 爽やかな青空……と思ったら、意外に濁ってる。花粉とかPM2.5とかかな? 春霞って言葉があるから、春の空って、こんなもの?


 お家の洗濯物が目につく。よそ様の洗濯物を見るなんて下品なことなんだろうけど、洗濯物でお年寄りのお住まいとか、赤ちゃんのいるお家だとかが分かる。ツナギとかの作業着がたくさん干してある家は働き者の男の人が複数いるんだとか、小さな靴下がいっぱい干してあるところはお子さんが多いんだとか分かっておもしろい。


 かなり高い空を音もなくジェット機が飛んでいく。白い飛行機雲を二筋曳いて、なんだか神さまが飛んでる……飛翔しているようだ(^▽^)/


 飛翔という言葉を思いついて、ちょっと嬉しい。『飛んでる』じゃ、軽すぎるものね。チョウチョやスズメでも『飛んでる』だもんね。そうそう、PM2.5だって『飛んでる』だもんね。PM2.5といっしょにしちゃ失礼だ。


 すこし嬉しくなってスキップ……したくなるけどやめておく。中学になってまでスキップは恥ずかしい(*ノωノ)


 すれ違う人でマスクをしている人が目につく。水中メガネかっていうようなのを掛けている人も居る。まだまだ花粉症の季節なんだ……


 肝心の桜を見ることを忘れてしまった(^_^;)。


 気が付いたら目の前に学校の正門。


 学校の正門脇には桜が付き物だ。


 注意して見ると、校舎の二階まで届きそうな桜が植わっている。


 近寄ってみると、枝の蕾がおっきく膨らんで、ものによっては、それこそ桜色の花の赤ちゃんがプクっと覗いているのもある。


 立ち止まってしまうと目立ってしまうので、数秒首を捻りながら見るだけ。


 わたしの開花観測は、その数秒だけで終わってしまった。


 帰り道は、桜の事なんか忘れてしまい、いつものようにボーっと帰ってしまった。


『アハハハ』


 交換手さんに笑われてしまった。


 交換手さんは、これまでの事を考えても、わたしのことはお見通しのはずなんだけど、わざわざ電話で『どうでしたか?』って聞くのは、笑ってやろうと言う気持ち満々だったんだ。ちょっと面白くない。


『じゃ、こんどは目につくようにしといてあげますから楽しみにしておいてください』


 なんか、おちょくられてるみたいで、適当な返事をしてお風呂掃除にいく。


 靴下脱いでお風呂場に入る。


 あ!


 換気のために少し開けた窓からハラリと桜の花びらが一枚舞い込んできた……。


 きょう一番時めいた桜だったよ。




☆ 主な登場人物

◦やくも        一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

◦お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

◦お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

◦お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

◦小出先生      図書部の先生

◦杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き

◦小桜さん       図書委員仲間

◦あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像)





 

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