第50話『セーラー服の卒業生』


やくもあやかし物語・50


『セーラー服の卒業生』     






 アイロンをかけただけなのに清々しい。




 転校して来て数カ月しかたっていないので、他の子の制服よりはおニューなんだけど、それでも数か月分はくたびれている。


 でも、アイロンという魔法は制服も主のわたしをも清々しくしてくれるのだ。


 襟の折り返しとかポケットの縁とかスカートのヒダとかが小気味よくエッジがたっている。


 むろんヒダとかにはパーマネント加工がしてあって、アイロンをあてなくてもピンとしてるんだけど、やっぱシャキッとした感じになっている。


 姿見の前でクルリンと回ってみる。


 上着もスカートもフワっと広がる。


 なんだか春の妖精になったみたいで気持ちがいい。


 こんどは両手を水平まで上げて、勢いをつけてクルリン!


 スカートが広がり過ぎておパンツが見えてしまう。家の中でよかった。


 机の上の俺妹女子キャラたちが笑ったような気がした。




 式場には卒業生より早く入る。あ、ここから卒業式当日ね(^▽^)/。


 卒業生が入場して来るのを迎えるためらしいんだけど、わたしは教育的配慮からだと思う。


 雰囲気に慣れさせて、自分たちの時に失敗とかさせないために。式場の席に着いたら足を組んだりしないことを注意されたんだけど、そんなやつは居ないだろう……と思っていたら、何人かが開式までに注意されていた。かくいうわたしも、一瞬足を組みそうになって軽くおたついちゃったよ。開式直前には「深く座れ!」と注意される、ガサゴソとかガタっという音がして、かなりの子が座りなおす。


「ネクタイやリボンは歪んでないかあ?」


 生活指導の先生が注意、ふたたびガサゴソ。でも、言った先生のネクタイが微妙に歪んでいるのは御愛嬌。


 やがて『威風堂々』のBGが静かに流れて卒業生が入場してきて令和〇年度卒業式が始まった。


 式の最中もいろいろあるんだけど、触れていたら肝心なことが書けないから割愛するよ。


 割愛って字で書くと変だね、割って愛する。どんな愛だ? なんだか人の仲を割って愛する……いけない恋みたい……妄想してる場合じゃないよ(#'∀'#)。




 それは、滞りなく卒業式が終了し、卒業生がクラスごとに退場する時に起こった。




――六組、退場――


 声が掛かって、三年六組の先輩たちがザザっと起立。六組が最後のクラスだから、一時間余りの緊張が緩む気配がする。早い子は座り方を浅くしたり、脚を組む子もいるんだけど先生も、ここに至って注意はしない。少し緊張がほぐれる中、担任の先導で式場真ん中の通路を通って六組が退場していく。


 男子が前で女子が後ろ。


 その女子の最後尾、わずかに離れて一人の女子が胸を張って過不足のない卒業生の雰囲気で歩いている。


 歩き方も態度もキチンとしていて、卒業生の見本という感じ。


 だから違和感は無いんだけど、ひとつだけ気になる。


 その子の制服は、三十年くらい前に廃止になった昔のセーラー服だったよ。




 最後の人、昔のセーラー服だったよね?




 ちょっと前のわたしなら周りの子に聞いていたと思う。


 でも、いまのわたしは騒がずに、そっと胸に収めておくのだ。


 だって、セーラー服の卒業生は、きっと他の子には見えていないだろうから……。




 


☆ 主な登場人物

◦やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

◦お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

◦お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

◦お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

◦小出先生      図書部の先生

◦杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

◦小桜さん      図書委員仲間

◦あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫


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