第51話『本館西側の忘れられた像・1』


やくもあやかし物語・51


『本館西側の忘れられた像・1』     






 うちの学校は21000平米もあるんだよ。


 21000平米と分かってもピンとこないんだけど、東西南北の長さが書いてあったからね、数字に弱いわたしでも「おお!」って声が出たりする。


 東西に150メートル、南北に140メートル。


 大の苦手の50メートル走の三倍もあるんだよ。


 うちと隣の町内がすっぽり入る広さで、前の学校よりも広いとは思っていたけど、こんなに広いとは思わなかった。




 なんで知っているかと言うと、調べたから。


 なんで調べたかというと、図書当番が退屈だから。


 相棒の杉村が休んでいるのよ。慣れない頃は一人で当番するのが嫌で、図書の小出先生も転校したてのわたしに気を使って代わりの当番を寄越してくれたりした。ほら、図書分室のくだりで出てきた小桜さんとかね。


 三学期も末になってきて、もう転校生でもないという感じで一人でやっている。


 あいかわらず利用者が少ない。ってか、今日はゼロだ。三年生が卒業してしまったせいかもしれない。


 それで、古いアルバムとか創立何十周年だかの記念誌とかを開いているんだ。その記念誌に学校の概略が載っている。


 学校には知らないところがいっぱいある。


 知っているところは教室のある校舎、それも三階と二階の職員室くらい。あ、保健室には一度行ったっけ。


 体育館も内部は知ってるけど、外側は入り口のある所しか知らない。プールは、まだ入ったことないし。


 特別棟は美術室も音楽室も使ってるけど外側は知らない、一階の会議室は生徒は関係ないし……あれ?


 本館の西の植え込みに銅像がある。


 正門は東側なので西側の方は行ったことが無い、あんまり人が行かないとこなのに……孤独の銅像だ。


 ちょっと謎めいて気になる……。


 数冊調べて分かった。


 今の本館ができる前は、グラウンドがある西側に校舎があって、正門の位置は旧本館の中央にあたる西側にあった。


 その旧正門を入ったところに建てられたのが、この銅像なのだ。新校舎が出来た時に取り残されたみたい。


 見取り図では『愛の像』とある。古い航空写真では銅像らしいのは分かるんだけど、姿形までは分からない。




 図書当番が終わると、像のある西側に向かった。


 


 正門当たりほどには手入れされていない植え込みの向こうに見えてきた。


 シンプルなワンピースを着た少女像だ。


 髪はお下げで、右手に持った花を静かに見ている。軽く左足を踏み出していて、なにか散歩の途中で路傍の花を摘んだような感じ。


 一分近く眺めていただろうか、少女の彫り込まれいるだけの瞳が花を離れて、わたしに向いてくるような気がした。


 この世のものならざるものには慣れっこのわたしなんだけど、なんだか嫌な感じがしてきた。


 ウ……。


 我知らず唸り声が出てしまった。


 なんだか、街中で変態さんに出くわしたような、鳥肌が立つ感じ。


 少女像の視線を感じながら一目散に逃げてしまった(^_^;)。




☆ 主な登場人物

◦やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生

◦お母さん      やくもとは血の繋がりは無い

◦お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介

◦お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い

◦小出先生      図書部の先生

◦杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き

◦小桜さん      図書委員仲間

◦あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫



 

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