第29話『黒電話の怪異・2』
やくもあやかし物語・29
『黒電話の怪異・2』
皆さんこれが最後です さようなら さようなら
憶えているうちにコピーしてYAHOOの検索窓に貼り付けた。
ちょっとためらってからカーソルを検索のところに持って行ってクリック。
カチャ
ウィキペディアの――九人の乙女の像――というのが出てきた。
夢の中に出てきた言葉なので献策しても何も出てこないだろうと思っていたのでビックリした。
公衆電話の掛け方には疎いけど、こういう検索に慣れているのは我ながら今どきの子なんだろうね。
1945年8月20日 五日前に戦争は終わっているのに、当時ソ連といったロシアが攻めてきたんだ。
真岡って、樺太にあった街。
ソ連が攻めてくるんで、街の人たちは北海道なんかに疎開を始めていた。女子供を真っ先に疎開させたんだけど、真岡の電信局で交換手をしていた十二人の女の人たちが残った。みんな二十歳前後だったんだけど、電信局の交換手の仕事をしていた。交換手が居なくなっては電話が繋がらなくなるからなんだ。
8月20日 ソ連軍は前触れもなく艦砲射撃をした後に上陸して来て、生きている人を見れば見境なく銃撃してきた。
真岡の街に取り残された人たちは容赦なく撃ち殺されたんだそうだ。
局長さんは交換手の女の人たちに逃げるように言ったけど、九人が残って電話の交換業務を続けた。
電話をかけてきた人には、知りうる限りの真岡の状況と逃げ道などを教えたそうだ。
そして、電信局にも銃弾が飛び込んでくるようになって、最後に取り次いだ電話にこう言ったそうなんだ。
皆さんこれが最後です さようなら さようなら
そして、九人全員で青酸カリを飲んで自決した。戦後、稚内に記念碑が建てられ、彼女たちの最後の言葉が彫り込まれている……悲劇が起こったのは樺太だけど、ロシアに取られた真岡に建てることもできず、やむなく稚内に建てられた。
でも、なんでこんな夢を見たんだろう?
真岡のことも知らなかったし、稚内はおろか北海道にだって行ったことが無いんだよ。
皆さんこれが最後です さようなら さようなら
この言葉が、たまたま真岡の彼女たちの言葉と同じだったからだろうか……検索ツールで一年、一か月、一週間と絞ってみたけど、丸ごと当てはまるのは真岡の事しかない。
この家に来るまでのわたしだったら、ここで投げ出してる。
なんか、悪い夢見ちゃったでおしまい。ご飯食べるとかお風呂に入るとかして、その次の日には忘れてる。
でも、ここに来てからいろんなことが起こってるので、ちょっと考えてしまう。
どうも黒電話が怪しい……腕組みして黒電話を睨んでみる。
プルルル プルルル
夢ではなくて電話が鳴った! さっきの夢が無ければ逃げ出してる。
ぜんぜん怖くなかったわけじゃない。太ももからお尻に掛けてゾワってしてきた。
恐るおそる受話器を取る……もしもし。
――やくもちゃん、窓の外を見て!――
少女らしい声が叫ぶように言って、直後に切れた。
窓の外を見ると、いつもの庭じゃなかった。
木製の電柱が並んでいる道が延びていて、セーラー服にモンペ姿の女の子が駆けていく後姿が見えた。
追いかけなくっちゃ!
わたしは、窓を開けると外に飛び出して女の子を追いかけた……!
☆ 主な登場人物
やくも 一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん やくもとは血の繋がりは無い
お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん 図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている
霊田先生 図書部長の先生
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