第15話『赤い長靴・1』


やくも・15『赤い長靴・1』    






 長靴を履いていったら?


 お婆ちゃんが言う。


 モソモソと朝ごはんを食べていたら、リビングのサッシガラスを溶かしてしまうんじゃないってくらいに雨がひどいのだ。


 起きた時から本降りの雨だった。正直うっとうしい。


 学校までの道は、全部舗装道路なんだけど、崖道が曲者なんだ。


 ちょっとした雨でも、川かってくらいの水が流れる。今日の雨で、崖道はとんでもないことになっているに違いない。


 お婆ちゃんは昔人間だから、簡単に「長靴を履いていったら?」って言うけど、今どきの中学生は長靴なんか履かないよ。


「これ、直子が履いてたやつなんだけど、あんまり履いてないから……」


 お婆ちゃんの言葉を聞いていたんだろう、お爺ちゃんが真っ赤な長靴を持ってきた。




 ウーーーーーー




 ほんと言うと、学校休みたかった。


 自分で言うのもなんだけど、わたしは不登校になるような子じゃない。


 親の離婚というアクシデントで転校するハメになったけど、文句ひとつ言わなかった。


 不用意に文句とか不満とか言ったら、血の繋がりがない家族関係が崩れてしまう不安があるから。


 なにも一生、文句や不満を言わないで通そうとは思っていない。高校にいって、できたら大学とかもいって、就職して独立したら気ままに生きていこうと思ってるんだよ。


 だからさ、大雨の日くらい休んだっていいじゃん。


 お爺ちゃんが、さも――いいもの見つけた!――って感じで長靴を差し出してる。おばあちゃんも――――ああ、それそれ!――てな顔してて、学校休みたいとは言い出しにくい。


 0.8秒くらいたったところで「ありがとう、お爺ちゃん」と返事する。1秒以上開いたら気まずくなるもんね。




 それでも、じっさい履いてみるまではサイズが合わないことを期待する。




「ああ、やっぱり親子ねえ!」


 お婆ちゃんが感激、長靴はあつらえたようにピッタリだった。


「じゃ、行ってきまーす!」


 普段よりも明るい声あげて玄関を出る。気配で玄関の戸が閉まっていないことを感じる。お婆ちゃんが腕組みして雨模様を見てるんだ。雨で変更しなくちゃならない家事を考えてるんだろうけど、孫としては「やっぱり休む?」という一言を期待する。


 玄関から門までは八歩……あっと言う間……九歩目には、頭を切り替えて、大雨の中をダダっと走り出すわたしだった。



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