第13話『図書分室・2』


やくも・13『図書分室・2』   





 よく見るとひいお爺ちゃんの写真のよう。



 縁の細い額に入って、仏間の長押の上に賞状とかと並んで掛けてある。


 その黒褐色の額縁に似ている。


 ただ、縁の内側が真っ黒なんで、瞬間のイメージはでっかいスマホ。


「なんて読むんだろう?」


 小桜さんは、上の方に貼ってあるプレートの字を指した。


「う~ん……」


「二つ目は写真の写だよね、次が版画の版」


「ゴンベンに……栄誉の誉?」


 三つ繋げると『謄写版』という字になる。


 わたしたちの反応は、明治の人がスマホを見た時のようだと思う。


 電源が切ってあったら表面が真っ黒の手鏡だ。


 額縁のところを開けると、ホワっとインクのにおいが立ち込める。


「横が引き出しになってるよ……」


 机の引き出しほどのを開ける……枠付きのガラスの上に濃紺のインク……さらに開けるとローラーとインクの缶。それにヘラみたいなの。


「これ、コピー機じゃないかなあ?」


「コピー機……じゃ、このインクみたいなのがトナー? スイッチどこだろ?」


「アナログだよ、これ」


 推論した……たぶん、ローラーにインクを付けて、回しながら押し付けるんだ。


「なんか、半透明なのが貼ってあるよ」


 額縁にはガーゼみたいなのが張ってあって、その裏側にインクでベッチョリとトレーシングペーパみたいなのが貼り付いている。下にコピー用紙を置いて、上からインク付きのローラーを転がせば印刷できるのではないかと推理した。


「なんか書いてある……」


 神秘的だ……なんというか、文字の幽霊?


 濃紺のインクに濡れたところに、微かに白く浮き上がって文字らしいものがうかがえる……が、よく分からない。


「コピーしてみよっか」


 こういうのが好きなんだろう、ワクワクした声で小桜さんが言う。


 ローラーにインクを付けて、ゴロゴロとやってみる。


「あ、インクの付けすぎぃ~」


 ベッチョリして文字が潰れて読めたものじゃない。四回紙を替えて、なんとか読める。


「卒業文集……なるほど、ありがちなやつね。手書きだとなんか新鮮」


「そうね」


 相槌は打ったけど、わたしには卒業文集とは読めなかった。




 小桜さんが休んだ理由。


 杉野  : どうせ休むんだったら図書当番の日にして。


 小桜さん: なんで?


 杉野  : えと……転入生の小泉さんと話してみたいから。


 小桜さん: あからさま~!


 杉野  : 嫌か?


 小桜さん: え、あ……うん、いいよ。うまくやんなさいね(^^♪




 な、なにこれ!?




「読みにくいなあ……そだ、写真に撮っとこ」


 小桜さんは、スマホを出して楽しそうにアナログのインク文字を写した。




   



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